五味太郎さんに聞く「教育ってなんだ?」講演会レポート Part①

絵本作家として著名な五味太郎さんの講演会が二子玉川で開催されました。著書370冊以上という世界的絵本作家が語ったテーマは「教育」。企画したのは、地元世田谷区立二子玉川小学校のママさんたちのグループ「ひょっこり兵庫島」。

2年前に、多様な学びを保障するという法律「教育機会確保法」が成立しました。そんな今、子どもの教育に本当に必要なものは何なのか。五味さんのお話を通じてみなさんにも考えてもらえたらというのが、企画したママたちの思い。同グループ代表の松本敬子さんは、子育てに迷った時に五味さんの本に勇気づけられ、わが子が通う小学校でも、ぜひ五味さんに語って欲しいと考えました。その熱意が五味さんに伝わって、2年前に同小学校で講演会が実現。今回は、学校という枠を超えてすべての人に開かれた講演会が開催されました。

講演会の前半は“五味太郎流”の教育論を、後半は観客からの疑問や悩みに五味さんが、“五味太郎流”に答えるという流れで進行。Part①では、主に前半の内容をお伝えします。

講演会のフライヤー
五味さんの「学びほぐし」の術

 五味さんのお話は、興味深い話題を盛り込みつつも意表を突く問いかけで、私を含め、学びから少し遠ざかりかけた大人の思考をどんどんほぐしていくのです。五味さんのことをよく知る観客ですら、いい意味で期待を裏切られ、新しい思考のステージに昇らざるを得なくなるのです。流石です。五味流の言葉の深さを少しでもfutakolocoの読者にお届けできればと思います😊

五味太郎さん
五味さんの問いかけ① 
読み聞かせって、ホントに必要?

 大きな拍手の渦の中、登場するやいなや「なんかみんな緊張しているね~。緊張すべきは俺なんであって、仕事とんないでよ!」と笑いを取った後、「あ、僕、絵本を書いている五味太郎です。どうぞよろしく」ひょうきんな挨拶に会場は一気に和みます。

 「こういう仕事だから、子どもの読書について何かしゃべってくださいという講演依頼もくるのね。すべての子どもに本を読ませたいみたいな読み聞かせを推奨する団体の論理を聞いてみると、子どもって本が読めないから読んであげたい、とかね。子どもって本読めないんじゃない。あれ、読まないんだよ。ここが難しいところ。本が読めない、読まない、キムチが食える、食えないと一緒。キムチを食わないだよ。食べられないんじゃなくて。Can’tとDon’tの差が分からないまま、子どもに言っているんだよね」

 最初の話題は「読み聞かせ」。一般的に幼児教育などで推奨されている行為なので、多くの人が「良いこと」と思っているのではないでしょうか。でも五味さんは、すべての子どもたちに必要か?本が読みたくても読めない子には必要かもしれないけれど、読みたいと思っていない子どもに対しても必要なのか?と問いかけます。確かに余計なお世話と思う子どもがいるのかもしれません。五味さんは決して「必要ない」とは言いません。でも私の頭の中で、「読み聞かせ」=「良いこと」この図式が少しずつほぐれてきます。

五味さんの問いかけ② 
学校ってみんなが行かなきゃいけないの?

 「算数ができない子って計算しないんだよ。見ていれば分かる。“別に~”って顔してるもん。算数ができないんじゃない、しないんだよ。でも算数をしないってことが罪になるわけよ。絵を描くのも同じ。万人が描くもんじゃない。遠足なんかに行って感想文を書くじゃない。楽しかったです、とか。このへんだと高尾山だよな。得意な人は、すぐにまとめて出して帰るけど不得意な人は、しょうがないから50字以内ね、みたいなことを言われて。学校ってこんなことばかりやってるんだよ。人間って、自分の好みとか趣味の基本は、どう考えたって生まれつきって思うわけ」

 話題は本題に向かって行きます。子ども側に立って考えてみると、みんなが「学校に行くこと」を求めているわけではないだろうと想像できます。そういう社会システムになっているから親も当たり前のように自分の子どもを学校に行かせます。でも、学校でやることに興味を持てない子どもにとっては苦痛でしかないのかもしれません。「みんな学校に行くのが当たり前」、思考停止していた私の頭中で、学校とは何かという考えが巡り始めました。

100の座席は満席状態
五味さんの問いかけ③ 
チェロって人に習うものなの?

 現在73歳の五味さんは、5年ほど前に突然チェロを始めたそうです。とにかく楽しいということで、「今では曲も弾いて、簡単なアンサンブルもしています」と、先日ある雑誌のエッセイに書かれたとのこと。

 「それを読んだおばさまから手紙が来て、娘にピアノを習いたいと言われてお金もかかりそうというときに、五味先生のエッセイを読んで、え、習わない!! 楽器をやるのに人に習わない方法があるってことに目からうろこです、みたいな。それ読んで俺も目からうろこよね(爆笑)」さらに五味さんは、「考えてみたら俺、絵習ったことないもの。なんか書いていたら、書けるようになったし、絵本のつくり方も習った覚えはない。時々、絵本のつくり方講座みたいなのに講師で呼ばれて付き合うけれど、生徒さんが、『絵は描けるつもりなんですけど、お話が浮かばないんです』『お話は浮かぶんですけどどうやって割り振りするんですか?』なんて聞かれると『やめれば』って言いたくなる(笑)

 つまり、ここでの五味さんの問いかけは、チェロの体得の例えから人には、向き、不向きがあるんだから「自分でやろうと思ったことを自分のやり方でやるという人生ではいけないのか?」ということなのです。確かに、子どもが思うがまま好きなことを好きなようにやっている姿は何とも魅力的に映ります。それが、どこで崩れてしまうのでしょうか? 五味さんは観客の思考をぐるぐると促します。

五味さんの問いかけ④ 
学校は卒業した方がいいの?

 五味さんのお嬢さんは、今、ロンドンで建築の仕事をされているそうです。

 「僕の子だから学校というものをけっこう疑っていて、何とか高校を出てアメリカに行っちゃって、次はフランス、今はロンドンにいるけど、建築の学校に入ったときに、日本の高校の修了証書とか取り寄せる?って聞いたら、試験やって、いいよって言われたから入った。ということは、海外では日本にいた時の学校システムってあんまり意味ないんだよね(すべてじゃないかっもしれないけれど)。書類を書いて、試験受けるために、英会話をやって、コンピュータは仕事のツールとして必要って教わったのか、英語を聞くこと、しゃべること、書くことを随分自分でトレーニングしたみたい」

 海外が良いというわけではなく、五味さんが言いたいのは、好きなこと、これはいけるねって感じのものが見つかれば、学校にしがみつかなくても、どこで勉強してもいいということなのです。日本では、高校を出たという証明や大検のようなものを受けないと大学に入れないという学校システムが生きているから、学生が、今の学校生活を守るころばかり考えるのではないかと五味さんは危惧します。

終了後のサイン会も大盛況
じょうぶな頭とかしこい体になるために

 体は、丈夫はともかく「賢く」ないと生き抜けないって実感するというお話の流れから、この講演の趣旨に一番合った著書『じょうぶな頭とかしこい体になるために』(ブロンズ新社/1991初版)を紹介してくれました。五味さん流の独特の絵本とは少しタイプが違う活字の本です。

 「このタイトル自分でうっとりしたもんな(笑)。ここ通って向こう行くと地下鉄の駅早いよ、あっち行くとお茶飲めるよ、そういう社会に反応する賢さも必要だけど、これは自分に合うか、この考えは自分に合わない、これは誰が考えたんだろう、これはどのレベルでの決まりなんだろう。というような分析、検討、解釈、咀嚼していく体が必要なの。例えば、臭いとかあって腐っているのを食ってしまったらゲって吐く。その能力があれば、賞味期限いらないね。賞味期限が書いてなくたって腐っているのを食ってしまったら、それはお前が悪いってことだよね。その反応、判断をするには、賢い体、丈夫な頭っていうのが必要でしょ」

 さらに五味さんは、「グーグル電気つけて!みたいなのが出てきて、お前がつけろよって感じでしょ(爆笑)」と笑いを取りながらも、21世紀のこの時点で産業がない、でも何とか産業で回していこうとする今の社会を憂います。

 未来は分からない、将来は分からない、だからこそ子どもたちに「体力つけよう」「気力つけよう」と伝えることが大切。それこそが今一番必要な教育なんだという五味さんの哲学が、この本には込められているのではないでしょうか。

主催者、共催者の紹介

 この大イベントを実現させたのは、「ひょっこり兵庫島」のママさんパワー。素朴な熱意とユニークな温かさで、あの五味太郎さんに「俺の出番かな!」と言わせたのですから。そして、主催者「株式会社フクフクプラス」代表、磯村歩さんのご尽力。株式会社フクフクプラス(FUKUFUKU+)は、アートやデザインの力で社会を明るくし、障がいのある方の仕事と生きがいを創出するCSV型事業を展開されています。この春より小学生になるお嬢さんをお持ちの磯村さんは、ママさんたちの奮闘に賛同され、この講演会を大成功に導きました。

★Part②の予告

 Part②(こちらをクリック)では、講演会後半に行われた質疑応答の模様をお伝えします。これもまたスゴイです。質疑応答というよりは、質問者の提供した話題を、五味さんが対話の中で深掘りしていくという、むしろコーチングタイム。どうぞお楽しみに😊

【関連リンク】
2/15(金)講演会「五味太郎さんに聞く 教育っていったいなんだ?」地域のママグループが企画

株式会社フクフクプラス

ひょっこり兵庫島

地域でいろんな世代が集まる場づくりプロジェクト

五味太郎図書一覧

五味太郎さんに聞く「教育ってなんだ?」講演会レポート Part②

この記事を書いた人

牟田由喜子

牟田由喜子

瀬田に移り住んで約20年。とはいえ二子の魅力をしみじみ感じだしたのはここ数年。『地域でいろんな世代が集う場づくりプロジェクト』でサイエンス・ワークショップをやらせてもらったり、ぬくぬくハウスサテライトで展開中の『アート&サイエンス&読み聞かせ』のワークショップではサイエンス部門を担当。要は、地域の魅力をサイエンティックな視点で愛でつつ、みんなで楽しく語り合いたいんです(^^♪
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