五味太郎さんに聞く「教育ってなんだ?」講演会レポート Part②

絵本作家として著名な五味太郎さんの講演会レポートPart②です。Part①にてお届けした講演会前半の“五味太郎流”教育論はお楽しみいただけたでしょうか? Part②では後半の、疑問や悩みをお持ちの参加者の皆さんと五味さんとの対話の模様をお伝えします。

会場の二子玉川カタリストBAは100人のお客さんで満席
五味さんの「コーチング」の術

 Part①では、五味さんの「学びほぐしの術」を紹介しましたが、Part②では、参加者との対話タイムで披露された五味さんの新たな術を紹介します。これがまたスゴイ。五味さんは、質問者からの問いを正面から受け止めるなんてことはされません。質問者が提供した話題に沿って対話を重ねることで質問者に気づきを促し、自主的に行動するマインドに誘っていくのです。恐らくですがその場には、質問者の想定、期待とはまったく違う流れが生み出されていったのではないでしょうか。このようなカタカナ語を当てはめると怒られるかもしれませんが、五味さんの術は今風にいう「コーチング」に非常に近いように私は感じました。

 質問者の皆さん全員に掲載許可を取ることが叶わなかったので、許可が頂けた小学校5年生の桜成君と五味さんのやりとりから、当日の雰囲気を想像いただけると嬉しです😊

1番手の質問者、谷口新之助さんと五味さんの対話風景
五味さん VS オーディエンスの
対話タイム

 挙手された7人の方が提供した話題です。*=写真掲載許可をいただいた方

  • 僕は数年前に偶然五味さんのインタビュー記事を読んで衝撃を受け救われました。(*)
  • 先生のお母さまはどんな方なのでしょう?
  • 五味さんの今後の夢は何ですか?
  • 体罰や暴力がタブー視される今の社会をどう思いますか?
  • 子どものころ自分が嫌だったことを今、自分の子どもにしているという母としての自身への疑問。
  • 学校の先生の態度や言動に時々疑問を感じている小5です。(*)
  • これといって得意なことのない人に、好きなことをやれと言ってもボッとするだけでダメ人間になる気がしますが?(*)
堂々と五味さんに問いかける桜成くん(小5)
少年と五味さんの対話

 「学校の先生の態度や言動に時々疑問を感じてしまう」と桜成くんは問いかけました。

五味さん:そういうのって許してやれよ。キミが大きな気持ちを持つ方が絶対早い。そこまで分かっているんだもん。先生は上から目線で、上から言うことをせざるを得ない人なんだから、君が許さないとね。分かった!俺が受け止めるよ(爆笑)

 あの五味さんから少々意外なお答えが……。少年の問いかけは続きます。

桜成くん:給食でキライな物が出て食べれない人に、居残りさせてまで食べさせている先生がいるんですけど、ちょっとそれはって思うんです。

五味さん:それはさ、次の手を考えようよ。今しゃべったのをマジックペンで書いて学校の壁に貼って、僕はこういう意見なんですって言うと、君に賛成する人もいるし、そうでもないって人もいるだろうし、面白いじゃない。君がスタートすればいいんだよ。何もしなければ分かんないじゃない。「給食を居残りして食べさせるのは、僕はへんだと思います。みなさんのご意見を募集します」先生も意見があるなら壁に書いてくださいって言うわけ。先生は、「その子の健康のことを考えているんです」なんてウソを書くかもしれないよね(笑)。「それは嘘でしょう?」みたいな反論をするとか。民主主義というのはそうやっていくんです、お願いしますね!(笑)

 いかがでしょう。五味さんは、この前の質問者の方々に対しても意外な提案を返すのです。質問者の方のタイプと場の雰囲気を瞬時に観察して、一番ふさわしいと思われる言葉がけをしているように思います。それを聞いているオーディエンスも、いつの間にか「自分ごと」のように思考を巡らせながら、二人のやり取りに入り込んでいくのです。

生物(人間も)って
何かをするもんなんじゃないの?

 最後の質問者は、子育てに迷った時に五味さんの本に勇気づけられてきたという松本さん。「これといって得意なことのない人に、好きなことをやらせようと思ったらずっとボッとしていてダメ人間になる気がしますが」

五味さん:もっと幼いときに何か自分の個性に基づいた動き方というのを守るように保護しないでおいて、言い換えると、個性をつぶしておいて、今になって個性を持ちなさいという言い方をする。その子のペースで生きていると、ぐずぐずしてるとか言われる。でも、生まれつきのスピード、感覚、センスみたいなものは育っていたはず。それを育てないで、一般的な育児から学校に入学させておいて、それに合わなくて戻ると、遠回りさせることになる。なぜ6歳、7歳位で必ず小学校っていうシステムの中に入らなくちゃいけないのか。これは大変な疑問。

 さらに五味さんは会場全体を見まわしながら問いかけます。「何もしたくない、ずっとボッとしているってどういうことなのかなぁ」生物とは、生きるとは、何かをするものなんじゃないかと。だからと言ってその人の個性に任せて放っておけということではなく、その人間が生きていくことに向き合うと、「何か一つでも自分の中でできるものをやってしまうというのが生物(人間)なんじゃないのか?」と。

 あれこれと頭の中で答えを探す私同様、会場の皆さんも一人ひとりの頭の中で、恐らく様々な思考が巡っていたに違いありません。

ピンチの今こそ
基礎からやり直すチャンスの時

 最後に五味さんは、このように結びました。「今はある意味いいチャンス、基礎からやり直す時代に来ているのかもしれないね」確かに、そのように思考を巡らせて動き出せばそうなるのだと。それがこの日の五味さんのメッセージだったのかもしれません。

 「僕は元気に生きております。ということは、みんなも元気に生きましょう!!」大きな拍手の渦の中、笑顔の五味さんは手を振って退場しました。

新しい教育の動向を紹介する「ひょっこり兵庫島」代表の松本さん
松本さんからのインフォメーション

 日本の教育の常識が今変わろうとしています。2016年12月には「教育機会確保法」という画期的な法律ができました。学びの場は学校に限ったわけではないということを認めた法律です。フリースクールや自宅学習など学校外の教育の重要性が認められたのです。これを受けて世田谷区でも、学校以外の学びの機会を広めたり、公教育を変えようという動きが活発になりました。

 私たち「ひょっこり兵庫島」は、自然の中で遊びたいという子どもたちの声に応えて、子どもたちに自然体験を提供する活動をしています。ひょっこり兵庫島のFacebookには、新しい教育の動向や関連情報を載せていますのでどうぞご覧ください。

五味さん&主催者フクフクプラス代表の磯村歩さんは「桑沢デザイン研究所」つながり
主催者、共催者の紹介

 この大イベントを実現させたのは、「ひょっこり兵庫島」のママさんパワー。素朴な熱意とユニークな温かさで、あの五味太郎さんに「俺の出番かな!」と言わせたのですから。そして、主催者「株式会社フクフクプラス」代表、磯村歩さんのご尽力。株式会社フクフクプラス(FUKUFUKU+)は、アートやデザインの力で社会を明るくし、障がいのある方の仕事と生きがいを創出するCSV型事業を展開されています。この春より小学生になるお嬢さんをお持ちの磯村さんは、ママさんたちの奮闘に賛同され、この講演会を大成功に導かれました。

ひょっこり兵庫島の活動発表

★小学生のお子さんを持つママさんが主体となって活動している「ひょっこり兵庫島」は、春に向けて新メンバー募集中!!

◆取材を終えて◆

 最後に、サイエンスコミュニケーターでもある私の感想を一言。人間の後天的な要素になる教育というものを、いかにも主観的に聞こえそうな言葉を駆使して、生物としての人間の本質から説こうとされる五味さんの態度と哲学にとても共感しました。このような五味さんの態度でもって伝えられる教育論は、客観的で普遍的なものとして人の心に突き刺さるんだと実感しました。そして、その術を私もちょっぴり真似てみたいとも思いました。

★代表の松本さんへのプレ取材から講演会当日を経てこの記事執筆までの時間を、息子が小学生(瀬田小)だった12年前にタイムスリップして、五味流教育論と対峙できたことに感謝します😊

【関連リンク】
五味太郎さんに聞く「教育ってなんだ?」講演会レポート Part①

株式会社フクフクプラス

ひょっこり兵庫島

地域でいろんな世代が集まる場づくりプロジェクト

五味太郎図書一覧

この記事を書いた人

牟田由喜子

牟田由喜子

瀬田に移り住んで約20年。とはいえ二子の魅力をしみじみ感じだしたのはここ数年。『地域でいろんな世代が集う場づくりプロジェクト』でサイエンス・ワークショップをやらせてもらったり、ぬくぬくハウスサテライトで展開中の『アート&サイエンス&読み聞かせ』のワークショップではサイエンス部門を担当。要は、地域の魅力をサイエンティックな視点で愛でつつ、みんなで楽しく語り合いたいんです(^^♪
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