【コラム:ココロを扱うお仕事です】#17 法的アクションの心がまえ:疑問を感じたら早めに行動!

 私が今まで10年間、弁護士としてご相談を受けてきた中で最も印象に残った事件をご紹介しますが、ちょっとショッキングな内容を含んでおりますので、読み進めるにあたっては、ご注意ください。

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 いわゆる「普通の」日本人夫婦2人が普通にご相談にいらっしゃったのです。なんでも、子どもが生まれたのだが、出産時から明らかに黒色人種(とのハーフ)の子どもであり、助産師さんや看護師さんも明らかに顔が引きつっていたとのことでした。夫の親戚からも「お前の子じゃない」などと文句を言われ、とても辛かったそうです。

 私のところにご相談にいらしたのは、生まれてから既に1年が経過した後でした。妻に聞いたところ、黒色人種の男性にレイプされたとのことでした。もちろん、何が真実なのかは、私には分かりません。親戚からの非難もあり、2人は離婚をするつもりでいらしたのでした。そこで、夫と子との親子(父子)関係を正式に否定し、その裁判等に掛かる費用を弁護士費用も含め、妻が負担したいとのことでした。

 父と子との父子関係を否定するには、普通、「嫡出否認」の訴えというものが考えられます。しかし、この訴えは、子が生まれてから1年以内が出訴期間です。そのため、子が生まれてすでに1年以上が経過している本件では、この嫡出否認の訴えはできません。

 そこで、考えられるのは「父子関係不存在確認」の訴えです。この相談当時としては、父子関係不存在確認の訴えを提起する余地がありましたが、私の回答の態度が自信なさそうだったのか、結局私への訴訟提起等の依頼はされませんでした。つまり、この法律相談のみで私の手からは離れてしまったのです。

 そのため、その後のこの夫婦と子について離婚したのかどうか、親子関係の不存在が認められたのかどうかなどは不明です。しかし、その後、類似性のある別の事案で最高裁判決が出たため、こちらを紹介しましょう。

 その判決は、「DNA鑑定によれば血縁上の父とは認められない者を相手方(被告)とする親子関係不存在確認の訴えについて、嫡出推定が及んでいる」とし、訴えを「不適法却下」(いわゆる門前払い)するもので、社会の注目を集めました。

 ちょっと難しい用語が並んでしまいましたね。「嫡出子」とは、法律上の夫婦関係にある男女から生まれた子のことを言い、夫婦関係にある男女から(夫婦関係がある期間に)生まれた子は、自動的に嫡出子と推定されます。これを覆すためには、生まれてから1年という期間中に、先に挙げた「嫡出否認の訴え」を提起し、父の子でないことを立証する必要があります。

 この最高裁判決の事案は、簡略化すると以下のような事案でした。すなわち、妻Aと夫Bは2009年に結婚をしたものの、実は妻Aは婚姻前から男Cと交際を始め、性的関係を持っていました。

 しかし、妻Aは夫Bとの同居生活は続け、いわゆる夫婦の実態が失われることはないまま、2009年に妻Aは妊娠して子を出産しました。夫Bはその時点で、子は生物学的には自分の子ではないことを分かっていたが、妻Aとの間の子として出生届けを提出し、普通に育て(養育監護をし)ました。

 結局2010年に妻Aと夫Bは、子の親権者を妻Aとして協議離婚しました。生まれてからすでに1年以上が経過していた子どもについては翌2011年6月、元妻Aが子の法定代理人として、元夫Bと子との間の親子関係の不存在を主張して、「親子関係不存在確認」の訴えを提起しました。元妻Aは子と共に男Cと生活しており、DNA検査の結果によれば、男Cが子の生物学上の父である確率は99.999998%でした。

 つまり、この判決により、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、または遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在するなどの場合でない限り、子が生まれてから1年が経過すると、嫡出否認の訴えだけでなく、親子関係不存在確認の訴えもできないということが示されたわけです。

 このような「嫡出推定の制度」があるため、親子の関係を否定するのはとても大変なのです。その趣旨としては、①家庭の平和を目的とし、夫婦間の秘事を公開する不都合を避けること、②法律上の父子関係を早期に安定させること、などが挙げられています。

 というわけで、こと法的アクションについて、「疑問を感じたら早めに行動(法律相談)」というアドバイスをして今回のコラムを終わります。。

参考文献
ジュリスト1474号p112~p114(有斐閣)

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投稿者: 大瀧 靖峰

弁護士。丸ビル綜合法律事務所(パートナー)。 2015年まで二子玉川に7年間在住(最後の3年間は二子玉川商店街に在住)。 二子玉川街情報プロジェクト「フタコロコ」の法律アドバイザー。 http://otaki-yasumine.kaisya.info/