多くのメディアが駆けつけた内覧会は、開催日の前日5月26日に同会場(iTSCOM STUDIO&HALL)にて実施された。当日私はfutakoloco記者として、ポスターに描かれたフクロウの瞳に誘われるように会場に入った。開催から数日を経てすでに多くの方々が会場に足を運び、SNSなどには自身の想いや感想などを発信されている。それは大いに納得の現象だが、ではなぜ、あの東急株式会社がこのようなイベントを開催したのか? 科学技術振興機構RISTEXの研究プロジェクトによるアウトリーチ作品とコラボレーションしたのか? そんな視点からもEND展は楽しめるのではと、後半の取材を終えてでは今回キュレーションを務められた塚田有那さんはじめ、アーティストとして参加されたドミニク・チェンさん、遠藤拓巳さんの思いも伺った。
まずは“死から問うあなたの人生の物語『END展』”の全体像からお伝えしたい。
登壇者
石寺敏:東急株式会社 沿線生活創造事業部 生活インフラ推進グループ ラヴィエール事業担当 課長 兼 東急ラヴィエール株式会社 取締役社長
塚田有那:一般社団法人Whole Universe代表理事
ドミニク・チェン/遠藤拓巳:10分遺言作者
オンラインノート「Hiraql」
Hiraql(ヒラクル)は、生と死と幸せを考えるヒント&ツール。誰にも公平に、いつか必ず迎える“死”。ここから逆算して“今ここを生きていくこと”、正解も近道もない“幸せ”について、自分と対話し、家族と会話し、考えを深めていく。「そんなことをサポートできるようにと思ってつくったオンラインノートです」と石寺さん。また、END展開催について、「学術的、芸術的、かつポップな形で、新たなものの見方を、五感を通じて感じてもらいたい」との思いを述べた。
『END展』について
石寺氏の言う学術的とは、『END展』が、キュレーターの塚田有那さんが関わった科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)の文理融合型研究プロジェクト「人と情報のエコシステム」研究領域での研究から端を発しているとのこと。彼女らがアウトリーチ活動として創出した書籍『RE-END 死から問うテクノロジーと社会』と、2021年11月に六本木のアートスペースANB Tokyoで実施された「END展 死×テクノロジー×未来=?」がベースになっており、『END展』はまさに学術的、芸術的、かつポップな形で表現されている。さらに今回の二子玉川での開催は、参加型の要素も深め、展示内容も深化されていると言う。
展示ゾーン
「死に関するさまざまな問いを来場者に投げかける参加型展覧会」ということで、参加は、来場予約フォームを書き込む所からから始まり、「お墓に入りたいですか?」「誰と一緒がいいですか?」……などの問いへの記述から考えさせられる。5つのゾーンにて展開されている会場ではいくつもの問いかけに思考が深められ、「死」が、そして「生きること」自分ごとになっていく。ナビゲーターは、キュレーターの塚田有那さん。
1. 魂のゆくえ
展示の始まりは五十嵐大介さんによるフクロウの原画から (撮影禁止なのでぜひ会場にて)
死に関することというのは民俗学や哲学、色々なもので語られている。民俗学者柳田邦夫の『遠野物語』の中にも人は死んだらどこにいくのか、魂はどこに向かうのか。という言葉がある。会場内でも「生まれ変わりたいですか?」「死後の世界であなたが信じているものは何ですか?」などの問いと向き合いながら歩を進めて行く。
2.終わりの選びかた
自分の終わりをどう選択し、考えるかを問いかけていくゾーン
「もし、生まれ変わったらまた自分になりたいですか?」さくらももこさんの作品「コジコジ」は生まれた時からずっとコジコジだよという頓智みたいなタネがあって、投票という形でタネを一粒ずつ入れる参加の仕掛け。「私は自分のこの身体でなくてもいいけど、精神はこのままの自分でもおもしろいと思うので、YESに一票!」と塚田さん。
3.死者とわたし
自分と死者、最近亡くなった人など死者との関係性を問いかけていくゾーン
『Meeting You』は、2020年3月に韓国MBCが放送した幼くして病気で亡くなった娘をCGで再現し、VR上で再会する母親を追ったドキュメンタリー番組。実は私も当時この番組を見てショッキングだった記憶がある。もちろん、こうしたテクノロジーの使い方には倫理的な問題がついて回るだろうし、「もし、死者とVR上などで会うことができるとしたら、会いたいですか?」と、ここであらためて問われると、当時の感情とは少し違った複雑な思いが駆け巡る。
死を変換する
早稲田大学の学生さんらによる作品。現代における肉体と死の関係を考えてもらうきっかけにしたいと制作代表の大須賀亮祐さん。「コロナ禍で、肉体的な死の象徴である遺体という存在が希薄になっている。遺体にまつわる死の汚れや危機感みたいなものが、どれほど肉体との距離をとることによって消失していくのかをフローチャートに可視化し、どう問うかを考えた時に「食べれますか?」肉体に取り入れることができるか?という問いが身近で分かりやすいと考えた」と。さらに深め、ここでの投票は「どのような状態に変換したら食べられますか?」以下6つの選択肢が提示されている。
①遺体のまま ②灰にして ③肥料に育てた作物として ④餌として食べた動物を食べる ⑤燃やして熱として利用 ⑥どれも食べられない
私の脳裏でまず巡ったのは「生態系循環の一助になるにはどの変換が有効だろう」だったのだが、その前に「愛する存在」と問われると、どの選択肢にもためらってしまうのだ。
4.老いることは、生きること
「老い」と人生に向き合いつつ、「生きる」とはどういうことかのヒントを見つけるゾーン
「老いを違う言葉で言い換えるなら?」ここにある単語は、事前アンケートからの言葉が網羅されている。発酵、循環、摂理、調和、歴史、味、死へのカウントダウン……など。言い換える言葉は、想定余命、つまりジェネレーションによって老いを客観視したフレーズ、もしくは人生を振り返りつつ生み出したフレーズ、その視点の違いが感じられて興味深い。
5. Type Trace/Last Words(10分遺言)
あなたは人生の最後、誰かに言葉を遺すとしたら何を書くでしょうか?
もともと2019年のあいちトリエンナーレで「10分遺言」という形で展示したのが始まり。この会場には15台のスマートフォンが展示され、それぞれに一般の方々から応募された匿名のテキストが再生されている。作品は、Type Traceというソフトを使って、タイピングの記録を全部記録して書かれた通りにテキストを再生するというソフトウェアを使ってのデジタル作品。「10分以内に各参加者が書かれたもので、書いては消し、もしくは、一見止まっているように見える画面も、カウンターが回っているのを確認すると動いている。いわば、その人の思考のプロセスを再生するということをやっている」と、作家のドミニク・チェンさんは説明する。
「10分遺言」参加募集中!
私もやってみた。10分とは短いなぁと最初は指がこわばったが、意外にも集中できるよい時間だった。
6.生きるとは
「生きる」に関する印象的なシーンを集めている。「マンガはエンターテインメントであり娯楽作品と言われますが、一方で芸術でもあるし哲学的でもあります。絵の芸術、言葉の芸術でもあるという想いを込めてアート作品として展示しています。「生きるとは?」この問いには、みなさん一人ひとりが印象に残った言葉などを残していただければ嬉しいです」と、塚田さんは展示ツアーを締めくくった。
取材を終えて→
- 名称
- iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズ
- 所在地
- 東京都世田谷区玉川一丁目14番1号