このエリア住民であり、サイエンスコミュニケーターでもある私が、興味深く感じたのはアート&サイエンスという学術研究によるアウトリーチの一つを東急株式会社という企業が注目し、街づくりという視点での事業促進に文化として取り入れたということ。その経緯をこの内覧会で両者から聞くことができたことが何よりの収穫だった。東急線沿線で生まれ、この地域で人生の幕を閉じようと考えている私にとっても有意義な取材となった。
前半は内覧会レポートとしてEND展の全体像をお伝えしたが、後半はアート&サイエンスの領域で今回のコンテンツに携わられた方々のコメントとして、ドミニク・チェン氏、遠藤拓巳氏、塚田有那氏のコメントを紹介する。
『10分遺言』作品化への準備と背景
ドミニク・チェン氏+遠藤拓巳氏より
あいちトリエンナーレに初めて出展したときは主催者に、いくつかの懸念材料も示されました。そこで終末医療に携わっている精神科医に相談し、さまざまな解決策を考えてきました。一方で終末の患者さんやそのご家族は、実は「こういうサービスを欲している。最後にありがとうって言いたい。だけどそれは意外にはずかしい、また誰かその場に他人がいて言えないとか、心残りを持って別れを迎える人が多い。こういうものを使って、それぞれが、それぞれの言葉を残しておくことができたらいいのでは」というお話もありました。今回はアート作品として展示していますが、むしろ終末ケアなどに関わっている方、家族の死に直面されている方々にぜひ書いていただきたいのです。僕らは確認のために中身を全部見ているのですが、90%以上が感謝の言葉を残されています。若い子だと本当は君のこと好きだと伝えたかった。ここに書き残しておきますとか。ある種のラブレターで愛に満ち溢れています。最初はメメントモリ的に死を思うことで制作したのですが、今回、自分の命が数週間、数カ月という方々の投稿もあり、身が引き締まる思いで内容を確認しています。
「10分遺言」参加募集中!
東急とのコラボレーションへの期待
塚田有那氏より
「街づくり」は光り輝く部分だけではないのかもしれません。時代の要請、高齢化社会も逃れられない状況下、最近ではウエルビーイングにも注目され、大きい企業だからこそできる本当の意味での街や人に関わっていく事業も増えてくるのではないでしょうか。また、そうなって欲しいという期待もあります。私たち研究チームがやっていることは、人文知とサイエンス、科学技術に関する知見を織り交ぜることで、そこから新たな知見や思想も生まれます。科学的分野も科学知だけに閉じず、さまざまな知を織り交ぜることが面白く、私自身、アートとサイエンス、そしてテクノロジーに関わっているのです。街づくりなどの領域にも我々のようなグループが関わり、共に新しい思想や考え方を生み出していくことに貢献できるとすごく嬉しいし、今後も何かの形でご一緒できることを楽しみにしています。
前の記事→ END展 ~死から問うあなたの人生の物語~ 内覧会レポート
- 名称
- iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズ
- 所在地
- 東京都世田谷区玉川一丁目14番1号