『生きる力を見つけた親子登山』出版記念トークライブ レポート

2025年8月9日に開催された用賀在住フリーライター棚澤明子さんのトークライブに潜入してきました!

棚澤さんの最新刊『生きる力を見つけた親子登山』(彩流社)の出版を記念して、松陰神社前にある棚貸し書店「100人の本屋さん」で開かれたこのイベントには、山登りが趣味の方はもちろん、これから子連れ登山に挑戦したい親御さん、著者・棚澤さんから子育てについて学びたい人々などなどが集まり、追加の椅子が用意されるほどの大盛況でした。

棚澤明子さんプロフィール:
小さな息子さん2人を連れて、電車がよく見えるスポットをたくさん知るようになり、「ガイドブックを作ったらおもしろいのでは」という発想から始まった『子鉄&ママ鉄の電車を見よう!電車に乗ろう!』(プレジデント社)や、東日本大震災で被災したお母さんたちを追ったインタビュー集『福島のお母さん、いま、希望は見えますか?』(彩流社)など、複数の著書を上梓している用賀在住フリーライター(www.akikotanazawa.com
「最近はタイパが重視されすぎて『手っ取り早く英語が学べる』とか『お受験最短コース』みたいな情報が目につくけど、そうやって捻出した時間で何してるかっていうと…スマホ見てるだけでは?」「段取り上手で先を読んで効率よく暮らすことで“今、ここ”をないがしろにしていた」など、登山を通して棚澤さん(写真右)がたどり着いた思いをたくさん伺うことができた。司会を務めたのは、トークライブの仕掛け人でもある一般社団法人「イヴの木」代表の鈴木景子さん(同左)

親と子は“オロオロ仲間”

記者の心に一番刺さったのは、登山を通して「親と子供は一緒にオロオロする仲間だと気づいた」という話。

オロオロ? ご説明しましょう。

大人って(たぶん子供も)「親は子供のよき見本であるべき。子供を正しい道へと導く存在」と思いがち。ふだんの生活では、「早くしないと遅刻するわよ」「勉強しなさい」と、“指導”する側に立つことが多いですよね。

それが、棚澤さんによると、山では大逆転が起こるらしいのです。

日常の知識や“常識”がまるで通用しない山の中で「私、何も知らないんだ!」と稲妻に打たれた思いをしたと語る棚澤さんは、元々ゴリゴリのアルピニストだったわけではなく、初登山は40歳を目前に「ママ友に誘われたから」。行き先は初心者に優しい高尾山で、それまで一度も山に登ったことがなかった上に、ご本人曰く、「子どもの頃から極端なまでに体力がなかった」そう。ちなみに昔から山岳小説が好きで、「気分だけは登山愛好家」の陸サーファーならぬ室内クライマー?だったんだとか

ふだん山にいないのは棚澤さんもお子さんたちも同じなのに、子供は教わらなくても自然と三点支持しながら岩場を登れたり、林の中でいとも簡単に用を足せたり(大人はたとえその体勢になっても“習慣”というロックがかかって出るものも出せない)。大人の棚澤さんは子供たちのスゴさに驚かされっぱなしだったそう(会場で棚澤さんが「皆さん、山で用足せます!?」って聞き回っていたのには笑ってしまいました)。

三点支持:両手両足の計4点のうち、3点でつねに体を支えながら1点だけ動かす安全確保の手法

登山は手探りで失敗ばかり。山頂でラーメンを食べることを楽しみに頑張って登ったのに、点火口を忘れて食べられなかったり、ペースを間違えて終バスに乗り遅れ、真っ暗闇の山の麓で路頭に迷う羽目になったり(写真は登山で宿泊した山小屋の様子)

子供の想像力に救われた場面もあったとか。大嫌いな蜘蛛が四方八方ウジャウジャいる山道で棚澤さんが一歩も前へ進めなくなった際、当時まだ6歳だった次男に「お母さんは猫が好きだから、足が長い蜘蛛は“ハイヒール猫”だと思えばいいんだよ」と提案され、おぞましい蜘蛛を「ハイヒールをはいた小さな可愛い猫」に脳内変換することで、その場を切り抜けることができたと言います。

いつも「親としてしっかりしなきゃ」と思っていたのに、山では子供のほうがしっかりしていてできることが多いだけではなく、守るべき存在だと思っていたのに逆に助けられることもしばしば。

登山中のこんな体験から、棚澤さんは「親と子供はお互い助け助けられる“オロオロ仲間”なんだ」と気づいたそうです。予測が難しく知らないことだらけの自然の中だから、正解なんて誰にもわからない。だから一緒にオロオロ。

子供からしたら、「絶対的な存在」「なんでも教えてくれる人」だと思っていたお母さんが、本気で焦ったり慌てたりして素の表情を見せるのが山。お母さんも必死なんだと実感できれば、子供も自分の頭で考えて一緒にピンチを乗り越えなきゃと思うことでしょう。

そして、よくよく考えてみればいつもの暮らしだってわからないことだらけ。このことに気づいた瞬間、「子育てがとてもラクになった」という棚澤さんのお話がとても印象的でした。

スペシャルゲストとして登場した、今は19歳となった次男の直さん(本の中では“ジロウ”くん。写真左)の話も興味深かった。直さんにとって山は「単体では意味を持ってないもの。だから山に対して何かを求めたり自分と切り離して考えるのは違う。楽しい気持ちで登れば楽しい。蜘蛛が怖いなと思えばつまんないってなっちゃう。山は自分の感情がそのまま投影される鏡みたい。自分の中にあるものが映し出される気がする」

これ以外にも本当にたくさんの学びをいただいたトークショーでした。どんなトークだったか興味のある人は、ずばりほぼノーカットで「イヴの木」公式YouTubeチャンネルにあがっているので、そちらもチェックしてください。そしてもちろん新刊本『生きる力を見つけた親子登山』は必読です。

『生きる力を見つけた親子登山』

棚澤明子

彩流社 ¥2,200(税込)

名称
100人の本屋さん
所在地
東京都世田谷区若林4丁目25−14 コーナー松陰ビル 2F

この記事を書いた人

こじまゆうこ

祖師谷在住。元雑誌編集者。ライター兼翻訳者。
二子玉川には自転車でよく出かけます。夕方にふたこから祖師谷方面への坂を立ち漕ぎで登っている50代女性を見かけたら声をかけてください。
ちょっと離れたところに住んでいるからこそ見えるふたこ界隈の魅力を見つけてお伝えしつつ、二子玉川、ひいては世田谷にハマりたい。