☆☆☆
前回のコラムで、「世田谷美術館」は世田谷ゆかりの作家の作品収集や、調査に努めているという事を書きましたが、連載コラム「イソマイの建築楽」第5回はその作家たちがアトリエ兼住宅としたゆかりの地に建つ美術館、世田谷美術館分館について注目します。「向井潤吉アトリエ館」「清川泰次記念ギャラリー」「宮本三郎記念美術館」と3つの分館がありますが、今回は『清川泰次記念ギャラリー』について。
この機会に早春の訪れを感じながら、世田谷美術館と3つの分館めぐりはいかがでしょうか?
区民が無料でつくれる「せたがやアーツカード」を利用すれば、観覧料が割引になりますよ。
☆☆☆
■ 第5回 アトリエ兼住宅を区民の為のギャラリーに 清川泰次記念ギャラリー
2006年私が初めて担当した平屋の木造住宅。その最寄り駅が成城学園駅でした。そして現場に毎週通っていた通りにいつも気になる建物がありました。
それが、今思えば「清川泰次記念ギャラリー」でした。白くモダンな建物は当時でさえ周囲とは明らかに違っていたのですから、完成した1961年当時それは話題になった事でしょう。
まず、清川泰次がどんな人物だったのかに触れておきます。1919年静岡県浜松市生まれ。
絵を描き始めたのは、慶應義塾大学に在籍していた1940年代でした。その後独学で制作を続け、卒業後に二科展や読売アンデパンダン展に作品を出展するなど、画家として本格的に活動を開始。32歳で渡米し、3年間生活した後、ヨーロッパやアジアを旅行し、パリにいた画家・藤田嗣治とも交流をしたそうです。40代で再び3年間アメリカで暮らし、絵画のスタイルを変化させながらも、ものを写すことに捉われない芸術を探求する姿勢を貫きました。
今回の展示「清川泰次 平面と立体」は、1980年代以降に制作した絵画と彫刻あわせて23点が紹介されています。
では、早速建物の中に入ってみましょう。今まで気になりながら、中に入る機会がなかったのですが、12年越しの内覧です。ワクワクしながら入ると、やはり思った通り和モダンな空間が広がりました。一番の見どころは、清川が生前にアトリエとして使っていた展示室(大)の2階までの吹き抜け。天井高は5.4m!床には、絵の具の跡も残っており、ここで描いていたという臨場感が伝わってきます。階段のラインと展示室(小)につづく開口部の美しいこと。写真を撮ると、一枚の絵の様に見えました。建物の随所に清川の意向が反映され、作家の美意識が感じられます。
取材という事で内部を撮らせていただいたのですが、以下貴重な写真です。
展示室(小)として現在使われている場所は、もともと子供部屋だったそうです。中庭を見ながら座れるソファーもあり、そのサイドには、セルフサービスのお茶セットも。大きな美術館とは違い、知人の家に訪れた様な気持ちでゆっくりと休憩する事が出来ます。
アトリエ兼住宅をギャラリーとして開館する際に、入口の位置を変えたそうですが、受付の位置とスロープ設置の関係から、奥になったのだろうと思います。元々キッチンだった場所はミュージアムショップと受付へ、リビングルームは区民ギャラリーへ、アトリエは展示室(大)へ、子供部屋は展示室(小)へ、そして美術館開館にあたり収蔵庫を増築。建物の歴史を感じながら鑑賞できる時間は本当に贅沢です。
こういった事例は空き家活用の参考にもなるので、じっくりと拝見させていただきました。
また、区民ギャラリーは区民に貸し出しているそうです!詳しくは清川泰次記念ギャラリーのHPにて。
一般的なギャラリーとは違い、開放的な空間なので、部屋全体を使った立体的な展示をすると外から見て面白いのでは?と個人的に思います。
地域に長く愛され、利用される建築。有名な建築家だけが良い建築を造るわけではありません。本当に重要な事は、その建物に関わる人達をどれだけ幸せに出来たか。清川泰次記念ギャラリーの建物は、沢山の人の手によって今存在している気がします。ぜひ一度訪れてみてください。
今回は、3つの分館の内の一つをとり上げました。さて次回はどこを訪れましょうか?お楽しみに…。
◼DATA
◇清川泰次記念ギャラリー
設計:二葉建築士事務所
展示室:38.7㎡
区民ギャラリー:約35㎡
(ギャラリーとして貸出。詳しくは清川泰次記念ギャラリーのHPにて)
概要:RCブロック造、木造 2階建
アトリエ兼住宅:1960年設計、1961年完成
ギャラリーとして開館:2003年11月
【コラム:イソマイの建築楽(ケンチクガク)】世田谷編#4 世田谷美術館と内井昭蔵
http://futakoloco.com/column/isomuramai/4635/
- 名称
- 所在地