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前回のコラムは駒沢オリンピック公園の記念塔についてでしたが、今回は前回の続き駒沢オリンピック公園総合運動場内の体育館についてです。
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■構造表現が特徴的な屋根の形状に―駒沢オリンピック公園総合運動場 体育館
前回、駒沢オリンピック公園のランドマークである記念塔についてお話をしましたが、その記念塔を正面に見て左側に見えるのが体育館です。こちらも、芦原義信の設計です。
まず、特徴的な屋根の形状に圧倒されます。全体の形がどんな形状なのか人の目線ではよくわからないのですが、上から俯瞰すると全体像が見えてきます。
八角形の形状をしているのが体育館。この屋根は、戦後から1960年代の特徴でもある「HP(ハイパボリック・パラボロイド=双曲放物面)シェル」を4枚使って構成されています。HPシェルは少ない材料で広い面積を覆う事が出来るため、大空間や体育館など出来るだけ柱を配置したくないような建築に向いています。HPシェルはコンクリートで作るのが一般的ですが、この体育館の屋根は鉄骨が採用されています。
鉄骨で作られた屋根の架構形状(材料を組み立ててつくった構造物の形状、組み方)がどうなっているのか気になりませんか?構造を担当した、織本匠の本の表紙に架構形状がわかりやすく描かれています。かごの網目の様に鉄骨を組み、双曲放物面を作っているのですね。
前回、「建築を色々な角度から見ると楽しい」とお薦めしましたが、建物がどのように出来ているのか、人間でいうならば骨格の部分を想像してみると、どうしてその形状に設計したのかに思いを馳せることができ、更に楽しむことが出来るのです。
室内についてもフロアマップを見て思いを馳せてみましょう。
この屋根の形状が明快な平面プランの設計へと導いたのでしょうか?建物の4方向が大きな開口部となり、外部空間とゆるやかに繋ぎます。東側にあるエントランスから地下に降りるとアリーナへの出入口があります。その出入口が試合を見に来るお客様を誘導するための「メインの動線(人や物が移動する場合の経路)」、南北に対抗するそれぞれの選手が入場する為の動線、西側が搬入やサービスをする者、例えば運営者、設営者などが利用する「サービス動線」。4方向に出入口が配置された事で、それぞれの動線が明確化され重ならない様に設計していることがわかります。
この体育館は、1964年開催の第18回オリンピック東京大会では、レスリング競技のメイン会場として使用されました。地下には「東京オリンピックメモリアルギャラリー」があり、同大会を中心に、オリンピックの諸資料を展示していて、聖火リレートーチなど、直接触れることができます。小中学校などの団体入場は事前申込でスタッフによるガイドも行われています。
2年後に迫った2020年の東京オリンピックに向けて、オリンピック気分を盛り上げるために来館してみるのもおすすめです。
設計した芦原義信は、建築単体の研究から建築群の研究へと進み、更に街並み、都市へと研究を進め、その成果を実際の設計に活かします。この駒沢オリンピック公園の記念塔と総合体育館では、建築を群として構成していく「外部空間論」の研究成果が実際に反映され活かされました。
実際に敷地全体を見てみましょう。敷地の北側と南側が駒沢通りによって、大きく分断されているのですが、北側にある体育館と陸上競技場のある中央広場から南側にある屋内球技場まで、歩道橋で敷地を繋がれ、高低差を解消しながら上階のレベルで公園全体の一体感を出しています。建物単体だけではなく、建物群としての一体感を出しています。中央広場は、研究していたイタリアの広場のように建築で囲まれた外部空間を思わせます。
建築は、建物の形状だけではなく、構造、設備、敷地全体の配置、街、人の流れ、素材の選択等、様々な要素によって成り立っています。
もっと知りたい!という方には下記の本をおすすめします。「対訳 東京の美学-混沌と秩序」は、日本語と英語の対訳の本もあり、建築の英語表現の勉強にもなります。
著書:芦原義信
・外部空間の設計 彰国社(1975年)
・街並みの美学 岩波書店 (1972年)
・対訳 東京の美学-混沌と秩序 市ヶ谷出版社(1998年)
■DATA
◇駒沢オリンピック公園総合運動場 体育館
設計:芦原義信
体育館
構造:鉄筋コンクリート造・鉄骨造
概要:地下1階、地上2階
延床面積:競技フロア38.86m×47.4m
収容人員:3,474人(仮設席1,120人を含む)スタンド席
竣工:1964年3月(1993年大規模改修)
駒沢オリンピック公園総合運動場
https://www.tef.or.jp/kopgp/index.jsp
- 名称
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