二子玉川商店街に「路上客席」 みちのテラス化で変わる、新しいまちの風景と暮らし

 この夏、昔ながらの風情が残る二子玉川商店街に、小さな新しい風景が生まれました。

 二子玉川駅西口から玉川高島屋のビルを通り過ぎた二子玉川商店街の入り口にあり、商店街の顔とも言える西河製菓店。お店の前の通りに椅子が数席置かれ、そこへ座って人々が通り過ぎる様子を眺めながら、かき氷を食べる親子連れやグループの姿がありました。

西河製菓店前(区道占用、8月9日正午)
西河製菓店前の「路上客席」(区道占用、8月9日)

 公園の売店前などでは普通に見られる光景ですが、ここは二子玉川商店街。この通りは区道であり、歩行者はもちろん、車や自転車の往来のある場所です。通常、飲食は店内スペースでサーブされ、満席の場合は入店を諦めるか店前で待つしか選択肢はありません。

 西河製菓店さんのような物販店は、基本的に「To Go」つまり購入したものをお持ち帰りしてどこか別の場所でいただくもの。別の場所、と言っても、周辺にベンチや休憩スペースもないので、多くの場合はお家でしょうか。

 「西河製菓店さんのみたらし団子は、お家に持ち帰って食べ、夏季限定のふわふわで絶品かき氷は(溶けちゃうから)店頭横のスペースで立ったままいただく」

 なんとなく当たり前のこととして受け入れてきた行動に、もう一つの選択肢「ちょっと腰を掛けてその場でいただく」があるのなら。それは、一見小さな変化なのですが、実は私たちの行動に大きな変化をも生むのではないでしょうか。

 これは、国土交通省道路局が6月5日に発表した「新型コロナウィルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の取り扱いについて」において、新型コロナウィルス感染症の影響を受ける飲食店等を支援するための「緊急措置」として路上利用の占用許可基準が緩和されたことを受けて行われた取り組み。

 飲食店の店舗内の密集を避けソーシャルディスタンスを確保するため、道路占用申請によって路上利用を可能とするもので、道路空間への仮設施設(テーブル・イス等)設置で各店舗前の道の一部をいわば「テラス化」します。これが感染症の拡大予防対策となり、新しい生活様式に基づいた経済活動の一助とすることが目的です。

二子玉川商店街「New Valley」前(区道占用、8月9日)

 二子玉川商店街ではこれまでにも、休日などに道路を歩行者天国にしてさまざまなイベントが行われてきましたが、今回は、にぎやかなイベント感はありません。通りにはいつものように人々が行き来し、各店舗はごく普通に営業中でいくつかの店前の風景が少し変わっただけ。でも、なんだかとても気になる…。

 この取り組みは二子玉川商店街振興組合とまちづくり団体の二子玉川エリアマネジメンツが協働して行っています(詳細はこちら・二子玉川エリアマネジメンツの公式ページへ飛びます)。

 「新しい生活様式に基づいた経済活動の支援」「路上利用の占用許可基準の緊急緩和措置」というと何やら難しそうでなかなか頭に入って来ないのですが、この取り組みの価値は、実際に自分自身がこの路上に用意された椅子に腰を掛けてみるのが一番わかりやすい。

 「みちのテラス化」(路上客席)はすなわち、縁側で庭を眺めながら一服のお茶をすする時間と同様で、道行く人を眺めながらちょっと一息つくための時間を提供してくれるもの。時には知り合いが前を通りがかったりして、人と人との交流が激減している現状において、お互いの近況や安否を思いがけず聞き合ったりする豊かな時間を生みます。

 国交省によるこの緊急措置は、今年11月30日までと定められている期間限定的の取り組みです。しかし、近年のみち(ストリート)のあり方は、ハード整備や交通安全面だけではなく、まちになじんだ景観・風景や、ウォーカブル(歩きたくなる)なまちとしての機能、また、そこに暮らす人、訪れる人にとっての過ごしやすい空間ととらえる発想がすでに示されています。

「New Valley」のテラス席から見た風景(8月9日)

 そう考えると、この日常の「小さな風景の変化」は、人々のまちで過ごす時間の使い方や交流のあり方、ひいては各自の心のあり様までをじんわりと変え続け、やがて「大きな変化」つまり「まちのイノベーション」へとつながるのかも、しれません。

 何はともあれ、一度、思い切って「路上客席」に座ってみてください。どんな気持ちだったか、何を感じたか、そこから見たまちの風景は自分の目にどう映ったか…きっと、そんなことをその路上客席で誰かと話し合う機会がほしくなっちゃいますよ。

 ※二子玉川商店街の「路上客席」は、日曜・祝日(歩行者用道路となる11時から19時まで)のみの実施です。詳細は以下の概要をご覧ください。

二子玉川商店街の路上客席利用について(二子玉川エリアマネジメンツ発表より):

路上利用占用部分について(提供:二子玉川エリアマネジメンツ)

①区道エリア

 占用の場所:車道、東京都世田谷区玉川3丁目15番3号~14号地先

 実施期間:2020(令和2)年8月9日から同11月30日の間の日曜・祝日(歩行者用道路となる11時から19時まで)

 参加店舗:ニューバレー、玉川三丁目酒場、西河製菓店

 

②国道エリア

 占用の場所:一般国道246号、東京都世田谷玉川3丁目15番3号

 実施期間(予定):2020(令和2)年8月23日から同11月30日の間の日曜・祝日(歩行者用道路となる11時から19時まで)

 ※国道部分にあたる二子玉川西地区ふれあい広場前の道路では、二子玉川商店街及び近隣施設を訪れた来街者の方々が利用出来るような、テイクアウト席・テラス席としての路上利用を計画。

名称
二子玉川商店街
所在地
世田谷区玉川3丁目15番3号

この記事を書いた人

こばなお

futakoloco 編集長。玉川町会100年懇話会事務局スタッフ。主に公民連携分野のフリーランス・ライター/エディター。二子玉川在住20年。出版社勤務を経てまちづくり法人で情報・広報戦略と水辺などの公共空間における官民共創事業に従事。多摩川流域生まれ&育ち。

暮らしを起点に「ほんとうに創造的な社会とは」を考えるラボラトリー「チームうなラボ」のフェロー。自分たちのまちづくり活動の経験や学びを言語化し、ときにはゲストとの議論と振り返りをまじえて発信・活動しています。

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