【生きることはアートだ!7】無名塾『野鴨』

 2月の寒い夜に、坂を上って、無名塾「仲代劇堂」に行きました。2月の夕方6時はもう暗くて入口は電気がついていました。無名塾は、役者さんの稽古場なので、ここでの公演の時は入口に立っている人も、チケットを扱う人も、そこにいる人はほとんどが役者さん。みんな美しい。

みなさんお美しい・・。

 開演15分ほど前で、客席は、もう8割は埋まっていたけれど一番前がまだ空いていたので、一番前のほぼ真ん中の席に座ることができました。よかった。演劇やコンサートはライブだからとにかく舞台に近いところに座りたい。生身の人間を体感できるからか、舞台に近い方が絶対に楽しい。 
今回の演目はイプセンの「野鴨」。イプセンは、「人形の家」はかろうじて知っていたけど、「野鴨」については全くのまっさら・・。

舞台には、白い椅子が一脚。観客が出入りするドアも舞台の一部になる。(写真提供:無名塾)

一脚の椅子と、階段、野鴨の小屋をイメージした枠、それと役者たちの動きだけでストーリーが進んでいくのですが、ラストシーンまで舞台にくぎ付けになってしまいました。それは、演出や役者さんたちの実力だったのでしょうか。とにかく、無名塾の舞台はクオリティが高かった。(何に対してお金を払うかは人それぞれだと思いますが、このチケット3500円は非常に安いと私は思いました)

2階は時に納屋になり、そこには野鴨がいる(写真提供:無名塾)
一脚の椅子を使って様々な場面が現れる(写真提供:無名塾)

劇の中の人を演じるということ、それは、その人を生きるということでしょう。なんだか、ヒリヒリするような空気。以前、この「仲代劇堂」でみた映像「セールスマンの死」のあとにも「人間」というもののどうしようもない愚かさやぬくもり、どうしたらいいのかわからない悲しみや焦りを、そっと持って帰らねばなりませんでしたが、やはり、映像でなくライブのほうが心に来ました。

舞台に引き込まれ、ヒリヒリする感じ(写真提供:無名塾)
悲しいというか、心がざわざわする。(写真提供:無名塾)
ラストシーン。イプセンは、ノルウェーの100年以上前の劇作家。国が違っても、時代が違っても、人の愚かさや尊さは変わらないのでしょう。(写真提供:無名塾)

 自転車で無名坂を下って帰りながら、自分の暮らすまちで、100年前の異国の劇作家が書いた名作の舞台をしっかりした劇堂で観られる幸せについて思いました。今やネットでいろいろな情報を得られますが、こうして生身の役者さんの演劇を観るという「体験」での情報量は、小さなスマホや画面を通したバーチャルなものとは全く違います。「演劇」というものを通して、「人間」の見えないところ(それがいちばん大事なトコロ・・・)について感じて、考える。

帰りにロビーで購入。『笹部博司の演劇コレクション イプセン編01野鴨』笹部さんのイプセン、演劇、俳優、についての考察も書かれていて面白い。

演出の笹部さんが、著書の中で演劇の本質について語られている部分があるのですが、そこに「・・・・観客もその罪の当事者となり、自らを断罪することで、浄化される。」という一文がありました。あの、舞台を見終わったときの何とも言えない感情はそうだったのか、と思いました。

 この文庫本、ロビーで購入したのですが、無名塾、小劇場で演じられる舞台そのものも素晴らしいですが、演じる役者さんがすぐそこにいる、というのも魅力です。ロビーでもたくさんのチラシを出演するご本人が配っていました。あちこちでたくさん上演されているのです。塾生は、毎日ここに来てお稽古されているそう。

ロビーにて。「僕、主演してるんです。」と井手麻渡さん。『ある町の高い煙突』春になったら全国ロードショー!(仲代さんも出演されてます)

次の公演は?とお聞きしたら、次は、この仲代劇堂ではなく、大舞台での公演。

無名塾本公演
『ぺてん師タルチュフ』
作;モリエール、訳;鈴木力衛、演出;髙橋和男
出演;仲代達矢ほか無名塾
能登公演;2019年10月 於・能登演劇堂(石川県七尾市)
東京公演;2020年3月 於・サンシャイン劇場(東京・池袋)

まだ、チケット発売などは決まっていないようなので、またわかったらお知らせします。

大きな劇場の大きな舞台での公演には、その迫力や、舞台装置など、小劇場とは違った良さがあるのかな、と思います。私は、ホールや劇場が大好きなのですが、能登演劇堂は、行きそびれていて。能登演劇堂は、ご存知の方も多いと思いますが、仲代さんが舞台設計を監修している演劇用の舞台。プロセニアム・アーチ型(客席から見ると額縁のようになっている舞台)で、舞台の後ろの壁が開閉式になっています。2009年の能登演劇堂の公演「マクベス」の時に、行きたい!と思ったのだけど(だって舞台の後ろがパア~っと開いて、仲代さんが本物の馬に乗って荒野を走るなんて演出、絶対見たいですよね)二人の思春期の娘がいて、どうしようと躊躇している間にチケットが売り切れてしまったという思い出が・・・。

 

能登も、池袋も、両方行きたいな。

すっかり、「無名塾」に魅了されてしまいました。(舞台写真はゲネプロで撮影されたものを無名塾さんにご提供いただきました。ありがとうございました。)

 

無名塾オフィシャルサイト,

2/8~2/17 岡本の仲代劇堂で【無名塾稽古場公演2019「野鴨」】

 【生きることはアートだ!6:世田谷美術館「田沼武能写真展 東京わが残像1948-1964」】

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この記事を書いた人

ゆか

サラリーマン時代に東急ハンズ玉川店、玉川高島屋を担当し、ここいら辺が気に入って移住。岡本の坂下に住み、母となり産んだ子どもたちはもうオトナ。2005年から鎌田で子どものアトリエを始め、2016年に大蔵5丁目「ゆいまあると3つの磁石」に引っ越し「子どものアトリエ」「映画とキャラメル」など、よくわからないことを展開中。NPO法人せたがや水辺デザインネットワーク事務局。