娘たちの母校の小学校の公開授業で詩人の谷川俊太郎さんの講演会がありました。谷川さんの詩は小さいころから大好きで、読み聞かせでもよく読みます。またとないチャンスでしたので、谷川さんのお話を聞きに行きました。
会場は、保護者の方でいっぱい。お父さんもたくさんいらっしゃっていました。砧南小学校に関わるようになってかれこれ16年、ランチルームにこんなに人が集まったのをみたのは初めてでした。
谷川さんは、軽やかで素敵でした。そして、言葉の一つ一つに重みがあるのだけど、その言葉は、すんなり、その場にいるたくさんの人たちの心に届いていたと思います。いくつかのご自分の詩を朗読してくださって、そこで谷川さんと一緒の空間にいる、ということが、その場にいるみんなを幸せな気分にしているなあ、ということが感じられました。
「語りたいことは詩の中にある」という言葉どおり、その詩がすべての答えなんだと思いました。
87歳の谷川さん。「詩を書く」ことについて、「どう生きて、こういう人になったのか。いかに生きるべきか、生きて行動することで応えるしかない」と語られました。
谷川さんが詩を書くことは、まさに、「生きる」ことなんだ!
谷川さんが詩を書かれるとき、それは、地面から湧き上がってくるそう。その言葉を捕まえていく。それは、自分中心ではない。とも。
たくさんの親御さんを前にしてのお話でしたので、子どもたちにどう対峙していくか、という話も具体的にされていました。
例えば、「詩」というのは、話し言葉とは全く違うところにあり、それは、結局は「生き方」の表現であるから、体験の少ない子どもたちにはなかなか難しい。詩、という自己表現をする前段階として、俳句のような伝統的な定型にあてはめて表現する練習をするといいと思う、というようなこと。
「読み、書き」の前に「聴く、話す」を教室でもしっかりやること。
大人が、自分の好きな詩を見つけて、声に出して、子どもに聞かせること。その時は理解できなくても、のちにそのことを理解する日がくる。
大切なのは「自分のことば」で表現すること。その「自分のことば」というのはどこから生まれるかというと、それは「生き方」からしか生まれないと。さまざまなメディアからの情報が、ほんとうなのかどうか。他人のことばに従わず、人間関係を自覚し、自分の心を自覚したとき、自分の言葉が生まれる、とも。
会場の方からの質問にもそれぞれひとつひとつ応えてくださったのですが、一つ、心に残ったのは、「死ぬのが怖い」と夜な夜な泣く子どもにどう対応したらよいか、ということについて。(私は、夜になると、一日が終わることといつか死ぬことが怖くて怖くて泣いていた子どもでした。娘も。)谷川さんの答えは「抱きしめて、自分も死ぬのが怖いと伝えて一緒に泣けばよい」。抱きしめて、「大丈夫、死なないよ」ではなくて「自分も怖いよ」と伝えること。人は誰でも死ぬ。みんな怖いのです。そのことを子どもに伝えてあげたほうが良いと。
1時間程度でしたが、詩の書き方から、子育て相談まで、いろいろなお話、そして朗読をしてくださいました。「全部答えは詩の中にある」ということが確信できて、詩を読めば、また谷川さんに会える気がします。
このあいだ出版された「バウムクーヘン」という詩集、これはひらがなで書かれていますが、大人向けの詩集です。読めばわかります。谷川さんは、この詩集の中に「いい人間になりたい」ということを書いた一編があり、その詩が一番好きなんだけど、題名を覚えていないからわからない、とおっしゃっていましたが、一遍というより、この詩集全体が、そういった内容です。「いい人間」って何?という感じかもしれませんが、それは、「野球選手になりたい」とか「パティシエになりたい」とかいう、職業や、「〇〇ちゃんのお母さん」や「先生」とかいう役割なんかではないということです。
「何になるか・・」やっぱり、「最高の自分になる」ことを目指して一生懸命生きるしかない。
谷川さんの「生き方」が人々を魅了してやまないのだと思います。なんだかその場にいた人がみんな、希望を持って帰ったような気がしました。
新しい詩集を出すそうです。題名は「平和と戦争」。もう書きあがっているそうですが、まだネット検索しても出てきません。来月あたりかな。
87歳。ずっと「今」を生きている谷川さんのお話しを、「今」というその空間で聴く、ほんとうに貴重な体験でした。
谷川さん、ありがとうございました。
【生きることはアートだ!♯4】松浦武四郎展@静嘉堂文庫美術館
http://futakoloco.com/column/murakami/6791/
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