二子玉川は多様なタンポポ咲くところ : わがまちサイエンティフィック探索記 2020

    4月29日(祝)に毎年開催されている二子玉川の一大イベント「ハナミズキフェスティバル」も、今年は新型コロナウイルスの影響でキャンセル。ここ数年、二子玉川商店街企画で「路上サイエンスコミュニケーション」を実施させていただいていた私はその準備で、この時期は河川敷での草花摘みで大忙しだったのですが、今年はそれも叶わず。そこで今回は、わが家からワンマイル圏(世田谷区瀬田1丁目・玉川1・2丁目)のタンポポの多様性をちょっぴり科学の目でレポートさせていただくことにしました😊

左は、日本で昔から見られる在来のタンポポ。右は、外来のセイヨウタンポポと在来タンポポとの雑種
在来タンポポとセイヨウ(雑種)タンポポの見分け方

 在来タンポポを見つける方法は、花の裏側の観察が基本です。上の写真をご覧ください。見分け方のポイントは、花を包む総苞片(そうほうへん)と呼ばれる部分が上を向いているのが在来種。下を向いているのが外来種やその雑種です。例えば、純外来のセイヨウタンポポか、それとも在来と外来の雑種なのかを厳密に同定するには、遺伝子解析が必要になります。

6つの黄色い●が在来タンポポを撮影した地点。薄い黄色●はアイキャッチ画像の昆虫が止まった雑種タンポポを撮影した地点。赤い●は若山牧水の石碑地点。以下の本文は、真ん中一番上の●から、ゆるやかに右回りで紹介します(^^♪
在来タンポポを探しに行こう!

 日本固有の在来タンポポがめっきり見られなくなったといわれて久しいです。それで私も、この地域に咲くタンポポはほぼセイヨウタンポポなのだろうとじっくり観察して歩くこともありませんでした。ところが、ここ数年、草花ワークショップ開催のために多様な草花観察に勤しんできたお陰で、毎年早春になると同じ所に在来タンポポが咲いていることに気づかされました。この地域の在来タンポポは、ほぼカントウタンポポ(Taraxacum platycarpum)だと思われます。なぜか、西日本に多いといわれているシロバナタンポポ(Taraxacum albidum)も見られます。とはいえ、この地域で見られるタンポポの大半は、在来種のカントウタンポポと外来種(セイヨウタンポポTaraxacum officinale)との雑種タンポポばかりです。

 セイヨウタンポポは、明治初期に北海道に野菜として持ち込まれたようですが、今現在純セイヨウタンポポは、北海道にひっそり分布するだけといわれています。人間がつくってきた環境に適応しやすいセイヨウタンポポが、古くから日本で馴染んでいる在来タンポポの特性を取り入れて増殖しているようです。近年、多くの専門家が発信している近縁のタンポポ間で性的相互作用(繁殖干渉)による影響なのかも知れませんね。

 私は、在来タンポポを見つけるたびに、「来年も会おうね!」と思わず声をかけてしまいます。

①セントメリーズインターナショナルスクールの法徳寺寄り斜面に咲くカントウタンポポ(写真の左手前)
②わが家のマンション(瀬田1丁目)のエントランス前にひっそり咲くカントウタンポポ
③二子玉川⇔上野毛間の大井町線沿いの斜面。ソメイヨシノの根元に毎年咲くカントウタンポポ。実は春はツクシ、秋はススキの群生スポットでもある(写真の左手前)
④世田谷区が保有する空き地に毎年咲くシロバナタンポポ。フェンスに囲まれていて人は入れない

関東では珍しい白いタンポポ

 シロバナタンポポは、西日本ではよく見られる在来種です。2015年から毎年観察していますが、3月の啓蟄が過ぎた頃咲き始めます。この空き地は年に2回トラクターで除草されますが、シロバナタンポポはめげずに毎年この位置に咲きます。

ライズマンション棟敷地内植栽の雑種タンポポの中に、なぜか毎年カントウタンポポが混ざっています。雑種化が心配
⑥二子玉川公園の向かい側の河川敷側道。写真手前の真ん中に咲くタンポポが在来種
⑥の位置からもう少し多摩川寄りにポツンと咲いていた在来種
⑦このタンポポは在来種ではありません。虫媒花とはいえない雑種のタンポポも花粉はつくるので昆虫が止まります。一見ミツバチのようだけど、足に花粉籠もないのでツチバチの仲間じゃないかな
⑧河川敷の堤防を超える階段の右側にカントウタンポポがちらほら。左側には雑種タンポポが群生
写真⑧の階段右側に咲くカントウタンポポ(2015年4月撮影)。大丈夫、今年(2020年)もカントウタンポポは健在です。左の写真は、階段の左側に咲く雑種群。右側のカントウタンポポの雑種化も時間の問題かな😢

人を避けて生き残ってる?

 総じて、在来タンポポは手が届きそうで届かない人間が土足で踏み込めないフェンスの中や高めの土手などに群生せずにひっそりと咲いています。また、開花期間が短く春先の2~3週間で綿帽子になり、気づくと辺り一面、雑種タンポポばかりが咲き誇っているというのが毎年の印象です。もちろん雑種タンポポも逞しくて愛らしい。

⑨二子玉川兵庫島公園の若山牧水の石碑 「多摩川の砂にたんぽぽ咲くころはわれにもおもふひとのあれかし(若山牧水)」出典:牧水の第4歌集『路上』明治44年(1911年)9月12日発行より
若山牧水と多摩川とたんぽぽ

 二子玉川兵庫島公園の丘上に上がる階段途中に、若山牧水の石碑があります。セイヨウタンポポが北海道にやってきたのが明治の初期とすれば、牧水が玉川河川敷で愛でたタンポポは純在来のカントウタンポポだったことでしょう。

ご参考まで。2007年当時東京学芸大学准教授でいらした小川潔先生に私が取材した記事。その後もさまざまな専門家が研究されていて情報は進化し続けています。出典:Science Window2007年4月号

おわりに

 都会ではなぜ、雑種のタンポポばかりが増え続けているのでしょう。そして、私たちはなぜ、多様性が大事と感じ、在来タンポポを守りたいと思うのでしょう。このレポートを手掛かりにちょっとだけ思案してみていただけると嬉しいです。まずはご近所を少しだけサイエンティックな視点で観察するのも一つです(^▽^)/

 生き物は、自分たちのすむ環境の人間活動の影響による変化も、それ以外の地球活動による変化も、分け隔てなく受け入れます。つまり、生き物たちにしてみれば、人工物によってもたらされる現象も人間以外の力がもたらす現象も自然現象の一つと捉えて淡々と適応し、適応できなくなればいなくなります。

 タンポポたちも然り。

 来年も同じ場所に華憐なタンポポたちの姿が見られますようにと願いつつ、新型コロナウイルスによるパンデミックの2020年4月は過ぎようとしています。

 

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この記事を書いた人

牟田由喜子

瀬田に移り住んで20年余り。二子玉川地域の魅力をしみじみ味わう今日この頃です。

早春には、多摩川河川敷や兵庫島の牧水たんぽぽ碑付近、タマリバタケ、玉川野毛町公園などでタンポポ・ツアーを実施したり、自然観察することで、みんなで社会や環境課題に向き合いたいと思っています。

人も自然も未来に続く日常のために、地域を愛でつつ、学び合い、対話を重ねる時間を大切にしたいという想いを込めて、サイエンス・ワークショップなども実施しています(^^♪