2018年4月23日に設立された「一般財団法人世田谷コミュニティ財団」(以下、SCF)。今年6月には、新型コロナウイルス感染症・対策支援のために「かけはし基金」を創設し、7月2日に4団体の応募のうち2団体を採択しました。現在、7月31日まで寄付を募集中です(基金の詳細はこちら)。
財団設立まで構想期間5年というSCF。しかし、一般的には「コミュニティ財団」がどのような事業を行う財団なのか、ピンと来ない方も少なくないのではないでしょうか。そこで、二子玉川に本拠地を置き、世田谷区を対象エリアとするSCFについて、事務局の運営を担う水谷衣里さん(代表理事)、市川徹さん(専務理事)、白鳥奈緒美さん(常務理事)の3人にじっくりとお話を伺う機会をいただきました。
「コミュニティ財団」ってなんですか?
「コミュニティ財団(community foudations) 」は、1914年に米国の現在のオハイオ州クリーブランドで発足した「クリーブランド財団」の設立が最初といわれています。国内では1991年に設立された大阪コミュニティ財団が第1号です。2008年に行われた公益法人制度改革の影響もあり、2009年に京都地域創造基金、その後、各地で設立が続き、現在では約20ほどが存在しています。(参照:一般社団法人 全国コミュニティ財団協会サイトページより)。
地理的な「コミュニティ=地域」を特定して、コミュニティ内の諸課題を包括的な視点に立ち、資金をはじめとする資源を仲介・提供し、多様な背景をもつ住民の暮らしの質を高めるために貢献する組織…と定義されますが、SCFはもっとシンプルに「まちを支える生態系をつくることがミッション」と説明しています。
「まちを支える生態系をつくる」とは?
「まちを支える生態系をつくる」とは、コミュニティ内の課題解決や新たな価値の創造につながる公益活動をコミュニティで広く支えるために、必要な資源の仲介を行う仕組みを構築すること、と水谷さん。
自分のまちをもっと良くしたい。このまちで暮らす誰かを支えたい。都市での暮らしをもっと楽しみたい。という思いを核に、「実際に活動をする人」と「頑張る誰かを応援する人」をつなげ、そのことによって互いに刺激や学びを得て、新しい繋がりが生まれ、次は自分もチャレンジをする…そういった循環サイクル(生態系)をつくることがSCFの役割と話します。
SCFは都内初の本格的なコミュニティ財団であり、特別区を単位とするものとしては日本で唯一の存在。「全国でも珍しい都市型コミュニティ財団」なのだそうです。
「コミュニティ財団は、一人の人間が作りたいと思って作るものではなく、必要だと思ってくれるコミュニティをまず作ることが先だと思った」と話す水谷さん。もともとは研究職のリサーチャーとして、ソーシャルセクターや民間公益活動に関する政策立案やコンサルティングに従事してきた水谷さんは、「たまたま住み始めた世田谷」で「公益信託世田谷まちづくりファンド」で新しい「伴走型助成プログラム」の創出に携わりました。そこで出会ったまちづくりファンドの運営委員や助成先の方々と意見交換しながら、SCF創設への道を切り拓いてきました。
2017年1月に財団のビジョンとミッションを固め、同7月に設立寄付者募集を開始。「ファンドレイジングでは苦戦し、地上戦(対面での依頼)だけでなく空中戦(クラウドファンド)も行った」(水谷さん)そうですが、最終的には約400人から700万円を越える寄付を集め、2018年4月に発進。
民間による設立で民間によって運営され、コミュニティ全体を考える公益的な団体でありながら、民間ならではの柔軟性を活かして活動することができる点が特長です。
まちの課題を「他人ごと」から「自分ごと」へ
SCFは、社会(コミュニティ)の課題を「他人ごと」から「自分ごと」へ。「自分の暮らしがよければいい」から「幸せを分け合い、学びあえる社会へ」。そんな価値観と生き方の転換を支えることを目標に、多くのボランティアや寄付者の協力を得ながら活動を続けています。
SCFの事業は「設立記念助成事業」「事業指定助成プログラム」「冠基金プログラム」「遺贈寄付推進に向けた体制づくり」といった活動支援や助成だけではなく、「プロボノコミュニティの運営」「場の活用の推進」、具体的にはプロボノ人材の開拓のためのセミナーや勉強会や「まち巡りツアー」の催行など、実際に自らがアクションを起こすこともしています。
民設民営の「新しいパブリックをつくる装置」
水谷さんは、SCFで新型コロナウイルス感染症・対策支援の「かけはし基金」を創設したことで、民間が主体となって「新しいパブリック」を作ることの意味をあらためてよく考える機会になった、といいます。
「かけはし基金」が目指すのは、新型コロナウイルス感染症拡大によって生まれたしわ寄せを、コミュニティの力で解決すること。政府や行政が行う給付金などの基本的な生活保障とは異なり、コミュニティに存在する知識やネットワークを生かし、いただいた寄付金を「信頼できる」人や団体へ託すことが目指されています。こうした支援は、コミュニティに根付いているからこそできること。コミュニティの中での支え合いをもっと広げていきたいと話します。
自分の手や目が届くコミュニティでの活動へ寄付することで、関心がさらに高まり、まちの当事者として「地域や社会の課題に気づくセンサー」が育つ…そういったきっかけを作っている、と改めて感じたそうです。
新型コロナウイルス感染症によってもたらされた社会構造や価値観の変化を前向きに受け入れて、自分が暮らしている半径3キロ圏内で起きている出来事に気づいてもらう機会につながるのでは、とも。
「いっちーがいなかったらSCFをつくっていなかった」と水谷さんが評する市川さんは、まちづくりに関わって20年というキャリア。「身の丈レベルでできること、だいそれたことよりも目の前の困っている人をどうにかする方がいい。ずっと自分の街のことを考える人を増やしたい、と思ってやってきた」。
学生時代から「世田谷まちづくりファンド」の運営に携わり、世田谷には官と民を繋ぐ中間組織が少ないという課題を感じていた時に、水谷さんから「コミュニティ財団」というアイデアを聞き、強い関心を持ち、「阿吽の呼吸で」タッグを組むことになったとか。
SCFが「じわじわと認知度が上がっている手ごたえはある」と市川さん。とはいえ、まだ積み重ねの途中、「評価ができる状態ではなく手探り中だ」と分析しました。SCF構想から創設に関わって7年、「こうあるべきというものにとらわれず、世田谷ならではの面白い道を作って行けたらよいと思う」と話しました。
4月に31年在勤した会社を辞めて、SCFの常務理事として事務局運営に加わった白鳥さん。数年前から「自分というリソースの使い方」を考えたときに、現場にいることの喜びや楽しさを求める気持ちがあったのだそうです。
会社員という立場からSCFを見ていて、持続可能な組織運営に自身が企業で培ったノウハウや経験が役立つのではないか、という気持ちで参画を決断した、と明かします。
新しいフィールドでの挑戦は「長丁場になるだろうという覚悟はある」と白鳥さん。SCFは、目に見える商品の開発を行っているわけではなく、「産官民という3者を様々な面で橋渡しする存在」。この先、この財団の寄付金採択団体などがSCFの実績や成果として評価され、財団自体への寄付も定常的に集まる仕組みを作っていくことも大切と話しました。
最後に、3人は「日本における財団の定義を変えていけるような存在になりたい」という抱負で一致。従来の企業や行政機関などによる基金や財団のほかに、もっと身近な「自分ごと」と感じられる寄付のあり方を、一つの選択肢としてSCFが示していきたい、と熱い志を語ってくださいました。
※インタビューは2020年6月11日二子玉川ライズ カタリストBAで行われました。
※この記事は二子玉川で活動する「ロコ」が自分の思いを「語る」インタビューを元にした記事のシリーズです。「ロコカタリスト」は、地域の人々(ロコ)が新しい価値を創造する触媒(カタリスト/Catalyst)となることを想定した造語でもあります。
参照:
Futakoloco過去記事:
世田谷コミュニティ財団が新型コロナウイルス感染症・対策支援基金「かけはし基金」創設・寄付を募集中