【生きることはアートだ!13】TAMA RIVERS vol.10 「広場演劇タマゾニア」

 昨年は新型コロナウィルスのため、中止となった多摩美術大学と二子玉川ライズの地域連携アートプロジェクト「タマリバーズ」。
 私も、コロナウイルス感染症が拡大し始めた昨年の3月ごろから、すっかり街にでることが減り、futakolocoでもアートイベントの記事を書く機会が少なくなっていました。

 ところが、先日偶然、今年のタマリバーズのプレイベント「もじあつめ」の看板設置の現場に居合わせたことから、幸運にも10月9日11時開演のパフォーマンスを観ることができましたので、レポートします。

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地域連携アートプロジェクトで懐かしい顔に再会

開催にこぎつけて本当によかった!開演おめでとうございます。
こういう細かいところが可愛いの素敵だなあ。

 公演初日、開演10分前に会場のガレリアに到着しました。席をひとつ空けた隣の椅子には懐かしい顔。昨年6月まで、二子玉川ライズでこのプロジェクトも含め統括していた責任者で、今は異動して新宿勤務をしている、知る人ぞ知るお方です。

 2018年か、2019年か、タマリバーズの「ふたこのわたし」の時に、このガレリアで一緒に盆踊りを踊りました。二子玉川ライズのスタッフジャンバーを着て、にこにこしながら、やたらくるくる回ってた御仁。この「お祭り」を地域と一緒に作られた方が職場が変わっても、こうして来てくださって見続けてくださることは、二子玉川のロコとしてとても嬉しく、こういうことが「地域連携のアートプロジェクト」なのだろうと思いました。

広い空間に間を空けて座って行きます。

多摩川の偉人たちへのオマージュ

 今回の公演について、9月4日からツイッターで情報発信がされていました。10月8日のツィートで今回の「タマゾニア」は、今年5月に亡くなった「おさかなポスト」で有名な山崎充哲さんの著作「タマゾン川」に発想を得たということを知りました。

 公演は、最初に在来種、外来種が対峙して、ダンスバトル、ラップバトルを繰り広げました。在来種と外来種、自然と開発、私たちの周りには難しい問題が山積みです。この世の中は多様性があるほうが豊かで楽しいのではないかと私は思いますが、多様性があるからこそ、お互いの主張が対立を生むということもあるのかなと思います。

在来種、外来種が対峙して、ダンスバトル、ラップバトルを繰り広げる。
多摩川に突然現れたアザラシの「タマちゃん」も登場。タマちゃんが現れたのは2002年の夏ということなので(ゆか調べ)学生さんたちにはもはや歴史の1ページかも・・。

 そして、外来種が在来種に「ガブッ」と嚙みついて「生きるためには食べなくちゃ・・」という一幕に目を奪われ、今回のタマゾニアの「はじめまして、ガブッ」というタイトルに潜む深い意味を考えました。

派手な衣装の外来種たち。出演者たちのマスクを使った衣装にも脱帽。
争う在来種・外来種の区別なく、大きな濁流が襲いかかり
在来種も外来種も逃げ惑うが、区別なく飲み込まれていく
全てが飲み込まれ、静かになっていく。(このシーンは、本来の広場演劇であれば、きっと参加者も飲み込まれていく演出もあったのかもと次に期待)

 今回の公演では、一度崩壊した川が新しい川として、多様性を受け入れる優しい寛容な川になって収束するというストーリーで終幕を迎えました。

クライマックスでは、水主(かこ)を中心に敵対していた者同士が共存していくというストーリー

 このストーリーのように、ともすれば生きるために対立を余儀なくされる多様なものたちが、共存するためにはどうしたらいいのでしょう。

 亡くなった山崎充哲さんの著書から発想したというこの物語。山崎さんは、主に多摩川の右岸(川崎側)で活動されていました。二子玉川では毎年4月29日に開かれる地域行事「花みず木フェスティバル」で、私たち「せたがや水辺の楽校」のブースのおとなりで、威勢よく鮎を焼いていらした姿を印象深く覚えています。

 山崎さんが亡くなる少し前、コロナウィルスが出現し日本も急激に変化しようとしていた2020年の初め頃に、多摩川左岸の二子玉川エリアでも、川のことをよく知り、伝えてくれていた二人の方が立て続けに亡くなりました。多摩川漁協の谷津田春吉さんと、「せたがや水辺の楽校」の中西修一さんです。
谷津田さんのことをコラムで書いていましたので、よろしければお読みください。

 「お魚ポスト」を作った山崎さん。毎年マルタウグイの産卵床を手入れし続けていた谷津田さん。そして「あそび」を通じて子どもたち、まちの人に川を知ってもらおうと活動した中西さん。みなさん、多摩川を愛し、街を愛し、それぞれのやり方で子どもたちに想いを伝えてくださっていました。

 中西さんは「川を知ればまちがわかる」ということをいつも言っていました。そして、川で楽しむ「あそび」をとても大切にしていました。だから、私は、中西さんが亡くなってしまってからも「せたがや水辺の楽校」を続けて行こうと思ったのだと思います。(私は、今、中西さんに代わって、せたがや水辺の楽校の代表をしているのですよ!)子どもも大人も、川であそんでちいさな生きものたちに出会い、「楽しかったなあ~」って思って帰る。それが、さまざまな対立をなくし、多様なものたちが共存していくためのなにか助けになるかもしれない。

 亡くなった人の声を聴くこと、私たちの暮らす街のこれまでを知ること、実際に今はどうなのかを体感すること、そして学び感じたことを表現して伝えること、そうすることが、何かにつながるかもしれない・・。今回のタマリバーズ「タマゾニア」は、私にそんなことを思い起こさせ、感じさせてくれました。そして、思い切り表現してくれた多摩美術大学の学生さんたち。彼らと一緒に、すぐそこの多摩川に行って水辺ガサガサしたかったなあ、と思いながら帰りました。

 来年は、また、今年とは違う学生さんが集い、この「タマリバーズ」を創るのでしょう。そうやって続いていくこと。そのことを、私は、来年も観たいし、伝えていきたいなあ、と思います。

 中西さんが亡くなった2020年3月16日の前日、3月15日に行われた「かわのまちアクション」のことを書いたコラムがありますので、こちらもぜひご覧ください。

駅周辺の保育園児さんたちが制作したエントランスの柱

 なお、今回のタマリバーズは、新型コロナウィルス感染拡大防止を考慮して、鑑賞券を現地で配布、座席指定で人と人との距離を空けて観覧できるように対策が取られていました。さらに、公演の様子は動画のライブ配信がされ、終了後もYouTubeで観ることができます。2回分の映像が公開されていますので、ぜひ、観てみてくださいね。

タマリバーズYouTubeチャンネル

 タマリバーズYouTubeチャンネル

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連載コラム【生きることはアートだ 】 

前回はこちら⇒ON THE RIVER展: ここにあってこそのアートに感じた「希望」

名称
二子玉川ライズ ガレリア
所在地
東京都世田谷区玉川2丁目21−1

この記事を書いた人

ゆか

サラリーマン時代に東急ハンズ玉川店、玉川高島屋を担当し、ここいら辺が気に入って移住。岡本の坂下に住み、母となり産んだ子どもたちはもうオトナ。2005年から鎌田で子どものアトリエを始め、2016年に大蔵5丁目「ゆいまあると3つの磁石」に引っ越し「子どものアトリエ」「映画とキャラメル」など、よくわからないことを展開。2023年、「ゆいまあると3つの磁石」近くに建った家に岡本から転居、「あめます舎」と名付けて家開きしている。NPO法人せたがや水辺デザインネットワーク所属。