【特別寄稿】令和2年瀬田玉川神社例大祭: 今だからこそ知る、「祭り」

 秋もいよいよ深まり、つい先だってまで、鎮守の杜で騒がしいほどに鳴いていた虫たちも、その務めを果たしたものや冬支度を始めるものやで、静かな境内の様相に落ち着いて来ている今日この頃です。

 例年であれば、10月の第3日曜日は、1年で最も賑やかな瀬田玉川神社の例大祭。子供たちをはじめ、多くの人たちが楽しみにしている露店や子供神輿、多くの威勢のいい大人たちで街の隈々を練り歩く大人神輿、神楽殿では日頃のお稽古の成果を神さまに奉納する日本舞踊やチアダンスなどが催され、2日間の祭りは最高潮の盛り上がりを見せます。

 (過去の例大祭の様子画像: futakoloco/小林直子提供)

 しかし、今年の例大祭は、コロナ禍の影響で、それらを中止せざるを得ないことは、とても残念で寂しく思っています。(futakoloco過去記事:10/17・18瀬田玉川神社例大祭、神輿渡御と出店は無し

 祭りの本義である「祭典式」は、10月18日10時30分から例年通りに斎行されます。そうした状況のなか、氏子の皆さまから「出来得る限り祭りを盛り上げたい」という思いをお受けし、お神輿だけでも境内に飾り、神楽殿を祓い清めお囃子を奉納するということになりました。

 多くの皆さまにとっては、境内の催し物が楽しみで神社に来られるかと思いますが、我々神職にとっては、この祭典式を最も重要且つ緊張感を持って臨む祭儀であり、世情に関わらず必ず毎年変わりなく斎行することを本義としています。

 日本人はこの「祭り」に際し、神代の時代から皇室と神社を中心に、五穀の豊穣、地域の安寧など、変わらぬ祈りを捧げてきました。祭りの本義である祭典式の様子を境内からご覧になられることも、良い機会になるのではないでしょうか。

 今回、二子玉川の地域で運営しているメディアであるfutakolocoから、感染症拡大防止のため人々が密集するというにぎわいを避けねばならないという社会情勢下だからこそ「今だからこそ知る『祭り』」について教えてほしい、というリクエストをいただきました。

 当寄稿を最後までお読みいただければ、きっと祭りの見方が変わり、もっといつでも神さまにお参りしたくなる(^^)⁉気持ちになれるかもしれません。どうぞお付き合いください。

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1.日本の「神さま」ってなんでしょうか?

 祭りについてお話しするには、そもそも日本の神さまってなんだろう?ということを考えてみましょう。

 ご存知な方も多いと思いますが、日本の神さまは「八百万神(やおよろずのかみ)」と呼ばれます。これは八百万柱(※柱=神さまを数える単位)の神さまがいるという意味ではなく、古くから「八」という数字は最大を意味し、とてもたくさんの神さまがいらっしゃるという意味になります。

 そして、その神さまの対象は:

  • 自然万物(山、川、海、岩石、樹木、太陽、月、水、火、大地など)

 自然界に存在するあらゆる物に神々が宿ります。

 例えば、岩手の詩人・宮沢賢治は、動植物などの生物の「命」を表現する時は漢字で書き、建物や家財道具などを表現する時は「いのち」と平仮名で書くなど使い分けています。日本人が、命をとても大切にしてきたことと同じくらいに、物に対しても愛着をもって大切にしてきた国民性があることから、こうした表現が生まれるのだと思います。

  • 天変地異(雷、風、火山、地震など)

 自然界で起きる事象も神さまの対象になります。風神・雷神、ご神体が火山というところもあります。菅原道真などは、雷神とも表現されますが、恐れ多いものについて、平穏に鎮まってもらいたいということから、祭りが行われてきた歴史もあります。

  • 偉人(歴代天皇、菅原道真、平将門、徳川家康、東郷平八郎、乃木希典、英霊など)  

 世の中のために、偉大な功績を残した人物も、神社の神さまとして祀られることがあります。例えば、明治天皇は明治神宮に、菅原道真は太宰府天満宮に、平将門は神田神社に、徳川家康なら東照宮、東郷平八郎は東郷神社、乃木希典は乃木神社、国のために尊い命を捧げられた多くの英霊は靖國神社や全国の護国神社に祀られて、毎日、欠かすことなく神職たちが祭りの奉仕を続けています。

2.「神社」とはなんでしょうか?

 次に、神社とはなんであるかについてお話します。これは、祭りととても関連が深いことなのです。

 元々、五穀豊穣、地域安寧などをお祈りする「祭り」は、自然の山や清らかな川、厳かな岩石や巨大な樹木などを通して行われていました。そうした場所が「神々が降り立つ場所」と考えられ、神さまに降りていただき祭りが執り行われ、祭りが終わればまた、天へお昇りいただくというものでした。

 現在でも、個人宅やマンション、公共の建物などを建築する前に、氏神さまの神職にその土地をお清め戴く地鎮祭などを行う際には、祭壇に神籬(ひもろぎ)と呼ばれる榊(さかき)の枝を立て、神々に昇降していただき祭りが行われることがあります。 

 やがて時代の経過とともに、そうした祭りが行われる場所に、雨でも祭りが出来るように、また氏神さまでもあるその土地の祖先の神々にお鎮まりいただき祭りを行うために、屋根がかけられるようになりました。

 「神社」は、「神」=神さまと「社(やしろ)」とに単語を分けられますが、この「社」の語源は「屋代(やしろ)」と考えられています。「屋」=屋根、「代」=場所を表します。他にも、網代、苗代などの地名がありますが、これも場所を示すものですね。つまり、「神社」=「祭りを行う場所」という意味になります。

 神々にお鎮まりいただき、祈りを捧げ、祭りを行う場所は、その地域の中でも中心的で立地条件の良い場所であることが多いです。それだけ、古代から日本人が祭を行う場所としての「神社」を、とても大切にしてきたということがわかります。

3. 「祭り」とはなんでしょうか?

 「祭り」の語源は、「まつらふ」という動詞で、神々の威に人々が従うこと、奉仕することなどの意味があります。

 我々、神職はまさに日々「神明奉仕」ということをしています。こうした「祭り」をすることで、神さまは霊威が高まり、人々はその神威を享受できると考えられています。

 祭りの「祭典式」の中で最も重要なことは、神さまに「神饌(しんせん)」をお供えすることです。新米や新酒、新鮮な魚や野菜・果物など、その土地で収穫されたものなどを神さまに召し上がっていただき、一年を無事に生きることが出来たことへの感謝と恩返しを込めた「祈り」をします。

瀬田玉川神社の神饌。餅の左隣には、この後「鯛」が用意されます。

 昨年、皇室では大嘗祭(だいじょうさい)が行われました。この祭りで使用した大嘗宮では、神さまと新しく即位した天皇陛下が同じお料理(神饌)を召し上がります。

 「直会(なおらい)」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?瀬田玉川神社の地域では「鉢祓い(はちはらい)」などとも言いますが、直会はお祭りの後のただの打ち上げパーティーではありません(もちろん、そういう要素も祭りの楽しみの一つではありますが(笑))。

 御神酒(おみき)をはじめ、「神さまにお捧げしたものをいただく」ことで、「神威を享受する」という儀礼です。パワーをいただくということですね!(^^)! すなわち、「祭りは直会までが、大切な神事」ということになります。

 こうした祭りは、全国の神社において行われ、それぞれの地域の安寧と五穀の豊穣などの祈りを捧げてきた歴史があります。

 そして、時代を経るとともに、神輿や山車の渡御、神楽やお囃子、露店や芸能などの催し物など、祭りには様々な要素が加えられ、どんな人でも参加しやすく見物もしやすく興味がひかれる入り口があるようになったことも、祭りが永く行われてきた所以でしょう。

挿絵は、「紙芝居古事記」㈱グランドストラテジー発行より。古事記に描かれる「天戸開き」の様子。祭りのはじまりと言えます。・・・・

 そうした歴史に思いを馳せながら、瀬田玉川神社の一年で最も重要な「祭典式」に、お運びいただくのもいかがでしょうか。

 人の世の中では、様々なことが起こります。最近は、自然との共生バランスを著しく崩している傾向にあり、毎年のように天変地異のような自然災害が発生しています。これは、神々の怒りと捉えることもできるでしょう。

 こうした時代だからこそ、「祈り」の大切さを心に留めて、日々生活することも大切なのではないでしょうか。

文責 瀬田玉川神社 禰宜 高橋知明

 

名称
瀬田玉川神社
所在地
東京都世田谷区瀬田4丁目11−31

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