岡本の坂の下に、30年くらい住んでいました。静嘉堂文庫美術館の開館(1992/平成4年)と同時期に住み着いたのですが、子どもたちが小さいときには庭園にしか行ったことがなく、いつだったか一度だけ、母が上京してきたときに、「茶器」を観にいきました。地元のお友達は子育てを通じたともだちばかりで、仲間うちでも「お茶碗で有名なんだよね、あそこ」という感じだった気がします。futakolocoに参加したことをきっかけに、企画展に足を運ぶようになり4年。行くたびに新しい発見や喜びがあって、毎回楽しみにしていたところ2022年に展示ギャラリーが移転とのニュース・・・。
静嘉堂文庫美術館の移転について
前回、セカンドラストの「岩崎家のお雛様」を見て、さて、最後の展示「旅立ちの美術」。毎回、ここのポスターにはひきつけられるのですが、今回は映画「Back to the Future」(1985年製作)を彷彿させる題字に河鍋暁斎、「ラスト、攻めてるな・・」
開催を楽しみにしていたところ、同時期に新型コロナウィルスに関わる緊急事態宣言による要請を受け、閉館。このままでは会期終了してしまう・・・。この最後の展覧会は見ることができないのか、とあきらめかけていたところ、6月1日に再開、会期延長13日まで。
6月1日、なんとfutakolocoの記事で再開を知り、9時半の開館と同時に行ってきました!!(開館が通常より30分早まっています)
みどころは、たくさんあると思うのですが、私が釘付けになったのは、河鍋暁斎の「地獄極楽めぐり図」。これは、「画帖」、今でいえば、「絵本」と言ったらいいのか、見開きで40ページ近くの場面が描かれているものです。実物ページは、その一部が見られるように展示されているのですが、そのそばの小さなモニターで、全ページを順番にエンドレスで繰り返し再生していて、ストーリーを追うようにかなりじっくり見ることができました。小間物問屋・勝田五兵衛が愛娘・田鶴(たつ)の冥福を祈り、暁斎に依頼した作品だそう。14歳で亡くなった田鶴さんのこと、娘を失った周囲の人の思いを、天才暁斎がくみとって、細かい筆致と鮮やかな色彩、その能力を出し切って表現した作品は胸にせまるものでした。
展覧会を見たあと、庭園に出ました。梅の木の実は完熟する季節。庭園には、梅の甘い匂いが漂っていました。岩崎家のお墓、廟の周辺にはたくさんの紫陽花が咲いています。
圧倒的な自然の美しさ。天才たちは、自然の美しさ、人の精神世界の奥深さ、日々、変わっていく事象を、後世に伝え続けるために絵や、文章で表現してきたのかもしれないなあ…。
ギャラリーは移転しますが、そのあと、建物をどう使っていくかは未定とのこと。「これまで、企画展の時にだけ開放されていた庭園にはいることはできるのですか?」とお聞きしましたが、庭園もなくなりはしないものの、開放の方針などは決まっていないとのことでした。
緑の庭園に佇む「静嘉堂文庫美術館」。来年は、丸の内の明治生命館に移転とのこと。
~彌之助や荘田平五郎ら明治の三菱を支えた人びとが夢見た丸の内の地、重要文化財である明治生命館の中に静嘉堂コレクションを展示する美術館が生まれる。「丸の内美術館」計画は静嘉堂文庫創設と同じ明治25年のことであり、まさに130年越しの夢が実現することになるだろう。~展覧館図録「旅立ちの美術‘‘Departure‘‘in Arts」より~
たまたまなりゆきだけど、壮大な「夢の実現」前の「緑の庭園に囲まれた美術館」のそばにいられてよかったな。
新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、列品解説や、講演会などは中止なのですが、futakolocoで、学芸員さんの解説が動画でみられます。
静嘉堂文庫美術館「旅立ちの美術」展ガイドツアー動画を一挙公開、学芸員による見どころ解説!
美術館を出て、国分寺崖線の一部となる庭園に踏み出したとき、アートは自然とともにあるものだ「生きることはアートだ」と、心に響いてきた気がしました。
- 名称
- 静嘉堂文庫美術館
- 所在地
- 東京都世田谷区岡本2-23-1