【インタビュー】保坂展人世田谷区長:世田谷区のCOVID-19感染症対策とは

 7月27日に開催された「世田谷区新型コロナウイルス感染症対策本部」において、有識者メンバーとして出席していた東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授から、「PCR検査数を1桁増やし、社会的に必要な医療、保育、介護等の人たちに定期的な検査をしていくという社会的な検査についても準備をしていき、大幅に検査実施体制を拡充する」という提案を受けた世田谷区。区長も積極的に検討するよう指示し、全国的に関心を集め、各メディアからも大きく報道されました。
 二子玉川まちメディアfutakoloco(フタコロコ)は、区民目線で区の構想にアプローチ。8月19日、サイエンスコミュニケーターである牟田由喜子記者の取材申し込みを快くお受けくださった保坂区長に単独インタビュー! 科学者の立場からこの対策を提案され、支えてくださっている児玉名誉教授と世田谷区の連携についても詳しく伺いました。

8月4日記者クラブ会見動画

フタコロコの取材を受ける保坂展人世田谷区長(撮影:小林直子)

東京大学先端科学技術研究センターとの連携

世田谷区は東京大学先端科学技術研究センターと7月に協定を結ばれましたが、今回の「世田谷モデル」「社会的検査」と関連していますか?
 今回の新型コロナ感染症対策とは直接関連はありません。世田谷区は今年7月、多岐にわたる最先端の科学技術研究を実践する東京大学先端科学技術研究センターとの連携と協力に関する協定を結びました。きっかけは、AIを用いて雇用のプラットフォームをつくり、高齢者世代が、地域で雇用をつないでいくための実証研究プロジェクトなのですが、今後も児玉名誉教授の取り組みも含めて、様々な分野で連携していければという思いは持っていました。

◆児玉龍彦名誉教授との連携の経緯を教えてください
 東京大学先端科学技術研究センターの名誉教授である児玉龍彦氏は、世田谷区民でいらっしゃいます。都内でも感染者数の多い世田谷区の事態に科学者として憂慮され、4月のはじめに連絡をいただきました。児玉名誉教授は、区内の病院や福祉施設への包括的な抗体検査を独自に行われてきましたが、児玉名誉教授の紹介で、抗体検査の機械を持つ東京都医学総合研究所(上北沢)にて、1,000人分の抗体検査の調査を区として呼びかける準備をしていました。

7月27日実施された有識者との意見交換の様子。手前中央の着席姿が児玉名誉教授 (8月4日記者クラブ区長会見スライドより)

注目を集めた世田谷区の感染症対策!

◆今回の児玉名誉教授からのご提案はどのような内容だったのでしょう
 5月下旬から6月と感染者は低減して小康状態の時期もありましたが、7月に入って第2波といえる状況になり、区内ではPCR検査対象者が急増し、検査施設はフル回転になってきました。
 この状況を踏まえて実施された7月27日の有識者会議で、児玉名誉教授はニューヨークで顕著に成果をあげているPCR検査を思い切って拡大し、まずは検査数を一桁増やすことなどを提案されました。特に社会的検査を拡充していくことを「世田谷モデル」として提案されました。
 世界中で未知なるウイルスと対峙するための様々な取り組みが実践されていますが、成果をあげている取り組みから学ぶことが、感染症対策への近道である、と私も確信しており、世田谷区でもニューヨーク方式の導入を前向きに実践していきたいと考えました。7月28日には、BSの報道番組で報道され、波紋は大きく広がりました。

◆社会的検査について教えてください
 社会の安定的な維持に欠かすことができない、また、人との接触により感染リスクの高い職業、例えば、医療、介護、保育などの現場で働くいわゆるエッセンシャルワーカーに対して一斉に実施する検査を指します。
 日本でも世界でも、医療機関での院内感染、高齢者施設や介護施設での感染で重症化したり、亡くなった方が半数以上という現状があります。世田谷区内でもこういった施設で5人以上のクラスター発生事例があり、非常に危機感を持っています。事態が深刻化する前に感染者をピックアップし、クラスターの発生を生まないことで地域における感染の拡大を防ぐ取り組みです。
 世田谷区内でも、この社会的検査拡充の準備はすでに進んでいるところです。

(8月4日記者クラブ区長会見スライドより)

大切なのは仕組みづくり

◆児玉名誉教授のご提案を受けて、世田谷区が目指す新しい感染症対策はどのようなものでしょうか
 現在のPCR検査数は1日300件ほどなのですが、まずは600件へと拡充します。一方の社会的検査については一般向けの検査とは別に1日1000件を視野に準備中で、大幅に検査実施体制を拡充していきます。ステップアップしながら「1桁増やす」ところに持っていきたいと思っています。

◆具体的な検査手法を教えてください
 現在、東大先端研で児玉名誉教授を中心に導入準備を進めているのが「プール方式」という検査手法です。検査対象者自身が前鼻腔から検体を採取します。数人分をまとめて試験管に入れて検査でき、陽性反応が出たら、あらためて別に保管されていた1人ずつの検体を調べるというものです。検査効率が高まると考えています。恐らく、この秋、寒くなる前には稼働できるのではと考えています。

◆社会的検査の意義深さを伺いましたが、保健所の現在の体制で実施可能でしょうか
 残念ながら、現在の保健所の体制ではキャパシティーの観点からもとても実現が難しいと思っています。保健所以外の場所でもこの検査を引き受ける仕組みを創出しなければなりません。
 検査希望者には、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)をインストールしていただくことをお願いする予定ですが、陽性者に対しての対応はとても複雑です。現在保健所が実施している陽性者への対応を、保健所以外で実施できる体制づくりも必要です。
 検査手法は先ほどご説明した「プール方式」を想定していますが、対象者自身による前鼻腔からの検体採取は、医師法第17条を満たすために医療資格のある人が見守って行われる形を考えています。

(8月4日記者クラブ区長会見スライドより)

◆8月4日の記者会見で触れていた「陰圧車」とはどういうものですか
 東京大学先端科学技術研究センターのご紹介で、日産車体株式会社より「軽感染症搬送車」として利用する、陰圧車仕様の日産Caravanを無償貸与いただきました。
 ベースとなっている車両は、NV350キャラバンスーパーロングハイルーフ標準幅10人乗りで、運転席と客室の間にシール付き隔壁が取り付けてあり、客席から運転席への空気の逆流が防止されています。客席後部には客室の空気を、ドラフターを通じて社外に排出するファンが装着されていて、客室を常に負圧にする構造となっていて運転者への感染防止を図っています。
 同センターの要請に基づき、医療関係者の負担軽減のため新型コロナウイルス感染軽症者搬送用の車両として製作されたと聞いています。

「軽感染症搬送車」として、陰圧車仕様とした日産Caravan無償貸与の6月18日受領式 (区長Twitterより)
右下の写真(白い車体)が陰圧者 (8月4日記者クラブ区長会見スライドより)

“Go To PCR!”を世田谷から

◆検査数の増強は多くの市町村が目指していますが、その難しさはどんな点にあるのでしょうか
 世田谷区はもともとPCR検査の実施を重視してきました。7月の段階で1日300件以上の検査を実施しています。しかし、現状では、保健所を中心に対応する検査体制なため、マンパワー不足の問題やコスト(検査単価)が高い、ということも検査キャパシティー拡充のネックとなっています。
 一方で、区内の病院や医師会が、PCR検査センターをつくって献身的に対応してくださっていることも大きな力になっています。とにかく動き出さなければ前に進んではいかないので、「Go To PCR!」ということで世田谷から動き出そうという思いが形になってきたという段階です。

◆区独自で実現していくには大変なお金がかかるという指摘もありますが
 PCR検査数の拡充にあたっては、ふるさと納税制度を活用した「世田谷区新型コロナウイルスをともに乗り越える寄附金」を財源の一部に活用させていただきます。この寄附金には、第1弾(4月30日~8月24日)の募集に4,300万円を超える寄附が集まりました。そして、8月24日より、第2弾として、区のPCR検査体制の拡充への寄附募集を開始し、9月4日時点で、320万円を超える寄附をいただいています。
 また、新型コロナウイルスの治療を行うことで定期的に来院する患者が激減し、何億もの赤字を出す経営状態に陥っている医療現場や法人が多くあり、区としても支えなければならないと考えています。皆様からの寄附金や「新型コロナウイルス感染症対策対応地方創生臨時交付金」などを活用し、医療機関などへの支援も実施していきたいと考えています。

世田谷区新型コロナウイルスをともに乗りこえる寄附金(世田谷区HPより)

「真実は隠せない」という信念で科学的検証可能なデータを開示する

◆保坂区長は8月4日の会見の冒頭で、2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原発後に区内の各所で放射線量を徹底的に測り、そのデータが公開されたことを話されましたが、今回のコロナ感染症対策への姿勢と通じるところがあると思われたからでしょうか
 私にはずっと「世の中の真実は隠せるものじゃない」という信念があるのです。ですから、福島の原発事故直後の当時も、区内のあらゆる場所を半年くらいかけて1000か所以上測り、そのデータは一般へ開示しました。
 一部の人にとってマイナスになる情報であっても、多くの人には真相が分かった方が安心できるのであれば、きちんと真実を開示すべきです。PCR検査に対しても同様の考え方で感染している不安に怯えるよりも、きちんと検査した上でしかるべき対策を施していく。つまり、「安全な領域」を自分たちでつくっていく、という行動が重要ではないでしょうか。それが今の時代のやり方で、人々の安心安全と経済を両立させていく近道である、と私は確信しています。

重要なのは「プレイヤーはコミュニティを形成する街の人たち自身」という意識

◆新型コロナウイルス感染対策に直面している区民へメッセージをお願いします
 東京大学先端科学技術研究センターの研究者や保健所や区職員もプレイヤーであるけれど、重要なのは「コミュニティを形成する街の人たち」自身の意識です。
 さらに、医療・介護現場などで働いている人たちや事業者が鍵を握っていると思います。「コミュニティを形成する街の人たち」すなわち区民のひとり一人が、ご自身や家族の健康を守ることが街を守っていくことにつながります。
 もしも、感染が商店街や飲食店で起きたら「危ないから行かない」ではなくて、そこでちゃんと検査というローラーをかけ、リスクを全部チェックし、問題点に対して消毒なりの対応を行なったと説明できること、それだけでも不安を払拭するという意味ではだいぶ違うのではないでしょうか。
 少しでも早く、すべての人が安心して活動できる日が来ることを願うばかりです。

取材を終えて

 東日本大震災直後(2011年)の当時、東京大学アイソトープ総合センター長だった児玉龍彦先生が原発爆発事故で被災された人たちの思いを代弁するように、国民の放射線汚染の不安に応えるには今すぐ放射線の測定や除染が重要と訴えられていました。その時の先生の声が私の脳裏には焼き付いていて、あの児玉龍彦先生が、現在、新型コロナウイルスの感染対策に邁進されていることを7月16日の報道で知りました。その後、児玉先生の動画配信を継続して拝見してきましたが、毎回世田谷区や保坂区長との連携の話題に触れられているので、その詳細を知りたいという思いが膨らんでいました。そうしたところに、今回、保坂区長による「PCR検査の拡充と社会的検査」の発表があり、小林直子編集長に私の思いを伝えたところ、すぐにこの取材が実現しました。
 世田谷は私が暮らす街であり、コミュニティでも様々な形で感染対策に動かれている方々がおられます。二子玉川の街の人々でつくるwebメディアであるフタコロコでは、その行動に感銘した記者たちが、いち早く「ふたこYELL」と題した応援企画の記事シリーズを展開し、そういった方々の活動をコミュニティに伝えて来ています。
 その、いちローカルメディアの記者である私も、保坂展人世田谷区長へのインタビューが叶い、こうして地域へいち早くお知らせできたのは、多くの方のお力添えとこれまでの二子玉川コミュニティで築き上げてきた信頼関係によるものではないかと感謝しています。ありがとうございました💛

★私たちフタコロコが取材のために区長室にお邪魔したのは2020年8月19日。その後も区のホームページや世田谷区長記者会見の動画をチェックすると、世田谷区の新型コロナウイルス感染症対策は時々刻々と進展していることが分かります。読者の皆さまも、ぜひチェックしてみてください😊

世田谷区ホームぺージ〔新型コロナウイルス感染症に関するまとめ〕

記念にと、取材後に小林直子さん(フタコロコ編集長)が撮影してくれました(^^♪

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この記事を書いた人

牟田由喜子

瀬田に移り住んで20年余り。二子玉川地域の魅力をしみじみ味わう今日この頃です。

早春には、多摩川河川敷や兵庫島の牧水たんぽぽ碑付近、タマリバタケ、玉川野毛町公園などでタンポポ・ツアーを実施したり、自然観察することで、みんなで社会や環境課題に向き合いたいと思っています。

人も自然も未来に続く日常のために、地域を愛でつつ、学び合い、対話を重ねる時間を大切にしたいという想いを込めて、サイエンス・ワークショップなども実施しています(^^♪